一之瀬 渉税理士事務所

資本金や準備金を減少させるのはどんな時? 必要な手続を解説

25.01.14
ビジネス【企業法務】
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「減資」とは、企業が所定の手続を経ることで資本金を減少させることを指し、企業が財務状況を改善するための施策の一つです。
資本金は企業が事業を行うにあたっての運営資金にあたりますが、その減少は、さまざまな効果を生み出します。
今回は、減資の基本的な概要とそのメリット・デメリット、そして手続の流れを説明します。

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資本金の減少で得られるメリット

近年、著名企業による「減資」のニュースを目にする機会が増えています。
減資とは、普段の生活ではなかなか聞き慣れない言葉ですが、簡単にいえば「資本金を減少させること」です。
2024年11月には衣料品ブランドを展開する大手企業が減資を発表し、話題になりました。

資本金とは企業が事業を行うにあたっての運営資金であり、経営者は資本金を運用することで企業活動を行います。
それと同時に、会社資産が資本金の額を超えない限り、株主への配当が禁止されているため、取引先などの利害関係者にとっては、資本金の限度では運営資金が確保されているだろうと信頼する指標ともなります。
減資は、この資本金を減少させる手続のことです。

減資は、大きく「有償減資」「無償減資」の2つに分けられ、それぞれにメリットとデメリットがあります。
企業は減資を行う目的によって、有償減資と無償減資を使い分けることになります。

有償減資は、会社の財産の減少を伴う減資を指し、「実質的減資」とも呼ばれます。
節税目的の場合もありますが、多くは上場企業が株主に配当を支払うために行います。
通常、企業に利益が出なかった場合は無配当となりますが、企業としては株主との関係維持のため、配当を行いたいケースがあります。
そうした場合は、有償減資を行うことで生じた剰余金を配当にあてられるため、利益が出ていない企業でも株主に配当を支払うことができるのが最大のメリットです。
ただし、デメリットとしては、減資によって実際に会社の財産が減少することになるため、財務基盤の弱体化につながるリスクがあります。

一方、無償減資は、会社の財産の減少を伴わない減資を指します。
実際の資金流出がないため「形式的減資」とも呼ばれ、多くは欠損金の補填を目的に行われます。
通常、欠損金を相殺するためには黒字を計上する必要がありますが、無償減資を行うことで、資本金を取り崩し、欠損金の補填にあてられます。
欠損金が多いと、金融機関から融資を受ける際に不利になる可能性があるため、無償減資を行うことで、資金調達が容易になるというメリットがあります。
また、節税につながる可能性もあります。
これは資本金の額によって税制上の優遇策を受けられるかどうかが変わるためです。
税制上、資本金1億円を超える企業と1億円以下の中小企業では、1億円以下の中小企業の方が、さまざまな優遇措置を受けられます。
そのため、無償減資によって資本金の額を調整することで、税負担の軽減効果が期待できます。
ただし、この方法を選択した場合、資本金額の減少により取引先からの信用力が低下する可能性があり、金融機関からの借入にも影響が及ぶ可能性があることを認識しておく必要があります。

減資は企業の将来を大きく左右する重要な意思決定となります。
そのため、自社の経営状況や事業目的を総合的に勘案し、どちらの方法が最適であるかを慎重に検討することが求められます。

資本金や資本準備金の減少に必要な手続

資本金とよく似た言葉として「資本準備金」があります。
資本準備金とは、企業の経営悪化などに備えて積み立てる資金であり、会社法上の法定準備金の一つとして位置づけられています。
具体的には、出資額の2分の1を超えない範囲で設定され、資本金と同様に会社資産がこの資本準備金よりも上回らなければ株主への配当ができないことになっている点は同じですが、資本金とは異なる性質も持っています。

この資本準備金も、資本金と同様に減少させることが可能です。
たとえば、企業が株主還元を実施するためには、一定の配当可能限度額が必要になる場合があります。
その際、資本準備金の減少は財源を確保する有効な手段となります。
このほかにも、自己株式の消却を予定している企業が、その実施のための財源確保として資本準備金の減少を選択することがありますし、企業が経営危機に直面した際には、欠損填補の資金として資本準備金を活用することも可能です。

なお、資本金と資本準備金では、減少に必要な手続がやや異なります。
資本金の額は登記すべき事項のため、資本金の額を減少させた場合には、資本金の額の変更を登記する必要があります。
しかし、登記手続の前には、まず株主総会での特別決議が必要です。
この決議では、減少する具体的な金額や効力が発生する日付などを明確に定めなければなりません。
また、決議後は、債権者保護のための手続が必要となります。
これは、企業の財務基盤に重要な変更を加えることから、債権者の利益を守るために法で定められた重要なステップです。
その後、減資の効力発生日から2週間以内に変更登記を申請することで、手続が完了します。

一方、資本準備金を減少させる場合は、株主総会の普通決議によって減少額や効力発生日を決定します。
資本金の減少と同様に、原則として債権者保護手続が必要となりますが、一定の場合には省略が認められることもあります。
また、資本準備金は登記事項ではないため、資本準備金を、同じく登記事項ではない剰余金に振り替える場合、登記申請は原則不要です。
ただし、いずれの手続も、決められた手順にのっとって行う必要があります。

企業はさまざまな理由から、自由に資本金や資本準備金を減少することができます。
しかし、資本金や資本準備金は、企業の財務基盤に関わる要素となるため、適切な手続が必要です。
不明点がある場合は、この分野に詳しい専門家への相談をおすすめします。


※本記事の記載内容は、2025年1月現在の法令・情報等に基づいています。