『裁量労働制』が改正! 変更点と企業に必要な対応は
裁量労働制は、深夜業務や休日出勤などの割増賃金を除いて残業代が発生しないため、会社側は人件費の管理がしやすく、従業員も自身の判断で自由に働けるというメリットがあります。
その一方で、長時間労働になりやすく、労務管理がむずかしいという問題もありました。
今回の改正は、長時間労働の解消や、より柔軟な働き方の実現を目指したもので、これから裁量労働制を導入する企業はもちろん、すでに裁量労働制を導入している企業にも、新たな対応が求められます。
改正の具体的な中身について、把握しておきましょう。
専門業務型裁量労働制の改正ポイント
裁量労働制とは、『みなし労働時間制』の一種で、実際の労働時間ではなく、あらかじめ労使間で定めた時間を働いたものと「みなす」制度のことです。
たとえば、みなし労働時間を8時間と定めている場合、実際の労働時間が6時間でも10時間でも同じ8時間分の賃金しか発生しません。
今回の改正では、『専門業務型裁量労働制(以下、専門型)』と『企画業務型裁量労働制(以下、企画型)』の両方に、新たなルールが設けられました。
そもそも裁量労働制は、どの職種でも導入できるわけではなく、一定の条件を満たした専門型か、企画型の業務ではないと、適用することができません。
専門型とは、業務の性質上、従業員に労働時間や仕事の仕方などの大部分を委ねなければいけない業務のことで、これまで対象だった研究開発者や新聞記者、プログラマーやデザイナー、弁護士や税理士など、19の業務に加えて、今回の改正で新たに『M&Aアドバイザー』が追加されました。
この専門型に該当する業種に対して裁量労働制を適用するには、労働組合か、もしくは過半数代表者と、「みなし労働時間」や「有効期間」などを定めた労使協定を結ぶ必要があります。
今回の改正では、労使協定に「本人の同意を得ること」や、「同意をしなかった場合に不利益な取り扱いをしないこと」も追加で定めることとなりました。
企画型には改正前から、本人の同意などについて労使委員会の決議に定める義務がありましたが、今回の改正で専門型も同様の措置が取られるかたちになったということです。
また、「同意の撤回の手続き」と、「同意とその撤回に関する記録を保存すること」も労使協定・労使委員会の決議に定める必要があります。
企画業務型裁量労働制の改正ポイント
企画型は、事業の運営に関する企画・立案・調査・分析を担当する従業員に、適用することができます。
たとえば、人事制度の設計や生産計画の立案など、事業を運営するうえで欠かせない重要な決定を行う業務に限定され、対象者の多くは高い専門性を持っています。
企画型を導入するには、まず労働者を代表する者で構成された「労使委員会」を設置し、委員の5分の4以上による多数決で、各事項を決議しなければいけません。
決議する事項は「対象労働者の範囲」や「みなし労働時間」などですが、今回の改正によって、専門型同様、追加で「同意の撤回の手続き」と、「同意とその撤回に関する記録を保存すること」も労使協定・労使委員会の決議に定める必要があります。
そのほか、「対象者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと」も決議する事項に盛り込まれます。
賃金・評価制度の内容については、労使委員会を運営するうえで策定する必要がある『運営規程』にも、説明に関する事項を定める必要があるので注意してください。
さらに、「制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項」と「労使委員会の開催頻度を6カ月以内ごとに1回とすること」も、運営規定に定める必要があります。
前者は、制度が適正に実施されているか把握するためのもので、後者は、開催頻度に関する事項です。
労使委員会の開催後、使用者は所轄の労働基準監督署に裁量労働制の状況などを報告する義務がありますが、この頻度も改正によって、労使委員会の決議の有効期間の始期から起算して、初回は6カ月以内に1回、その後は1年以内ごとに1回に変更されました。
ほかにも、健康・福祉確保措置が強化されるなど、裁量労働制の対象者が健康的に働けるような改正が行われています。
専門型も企画型も、労使協定や決議などに追加事項があるため、新たに導入する場合はもちろん、すでに裁量労働制を導入している企業も、継続して適用するのであれば、協定の再締結や再決議などが必要になります。
その際は、労働基準監督署に協定届や決議届の届出が必要になるため、忘れずに行うようにしましょう。
※本記事の記載内容は、2024年5月現在の法令・情報等に基づいています。