ウィルサイドコンサルティング合同会社

その暴露が損害賠償請求に! 職場の『アウティング』に要注意

24.02.13
ビジネス【人的資源】
dummy
個人の性自認や性的指向を第三者が許可なく他人に暴露する行為のことを『アウティング』といいます。
アウティングは人権侵害の一つであり、条例で禁止する自治体も増えています。
しかし、アウティングと認識される言動の範囲や、それらはパワハラと判断されるものであるということが、社会に浸透しているとはまだまだいえません。
職場でアウティングが起きた場合、事業者は使用者責任を問われ、損害賠償請求まで発展する可能性もあります。
アウティングを防ぐための方法と、アウティングが起きてしまった場合の対応策を考えます。
dummy

アウティングはパワハラ防止法で禁止に

2022年3月、都内の保険代理店に勤めていた男性が精神疾患を発症した原因は、職場で同意なく上司に個人の性的指向を暴露されたアウティングにあるとして、労働基準監督署は労災を認定しました。
アウティング被害による労災認定は、全国でも初のことです。

個人の性自認や性的指向は、本人の意思で選択したり、矯正したりできるものではなく、その人の尊厳に大きく関わるものです。
特に、性的少数者であるLGBTQ(※)への理解が完全に浸透したとはいえない日本の社会のなかで、性的マイノリティの性自認や性的指向は、非常にセンシティブな個人情報になります。
したがって、本人の同意なく、第三者がその人の性自認や性的指向を暴露してはいけません。
※LGBTQ(エルジービーティーキュー)…Lesbian(レズビアン=女性同性愛者)、Gay(ゲイ=男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル=両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー=心と体の性別が異なる人)、Queer/Questioning(クイア/クエスチョニング=性的指向・性自認が定まらない人)の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティを表す総称のひとつ

2019年5月に成立した改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)では、職場におけるハラスメントを禁止。
2020年6月からは大企業、2022年4月からは中小企業でもパワハラ対策が義務付けられました。
この法律に関連した『令和2年厚生労働省告示第5号』では、「労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露すること」が、ハラスメント行為として記載されています。

また、アウティングをはじめ、性的指向や性自認に関連した差別的な言動や嘲笑、いじめや暴力、嫌がらせなどのことを、性的指向の「SO(Sexual Orientation)」と、性自認の「GI(Gender Identity)」の頭文字をとり、SOGI(ソジ)ハラスメントと呼びます。
SOGIハラもパワハラ防止法の対象となり、事業者はパワハラやセクハラなどと同様に、SOGIハラを防ぐための措置を講じる必要があります。

防止策の徹底と発生時の調査が事業者の責務

本人の意図していないところで、性自認や性的指向が第三者に知られてしまうと、当事者が安心して働けなくなってしまい、場合によっては就労の継続がむずかしくなる可能性もあります。
こうした事態を防ぐためにも、事業者はアウティングが起きないような環境や体制を整えていかなければいけません。

パワハラ防止法では、ハラスメント対策のための相談窓口の設置、窓口があることの従業員への周知、相談窓口の担当者が適切に対応できるようにするための研修実施といった措置が事業者の義務とされています。
しかし、アウティングやLGBTQなどに関する相談については、対応が不十分なケースが多々見受けられます。
相談窓口を担当する人事担当や役員は、SOGIハラ、アウティングについての知識を深めると同時に、これらについての相談も受け付けていることを、従業員に対して周知していく必要があります。

また、ハラスメント研修などで、他人の性自認や性的指向の暴露がハラスメントに該当する行為であることを学んでもらい、就業規則にもアウティングがハラスメントである旨を記載しておくことが重要です。
これらの対策を怠った結果、職場でアウティングが起きてしまうと、事業者は職場環境配慮義務に違反したとして、アウティング被害を受けた従業員に対して直接的に、損害賠償責任を負う可能性もあります。

もし、対策をしていてもアウティングが起きてしまった場合は、迅速な対処が求められます。
まずは被害者へ聞き取りを行い、アウティングがいつ起きたのか状況や内容、当事者が誰か、心身に不調はないかなどを確認しましょう。

続いて、加害者にもヒアリングし、被害者から聞いた内容とすり合わせます。
もし双方で認識の違いがある、または客観的な事実が把握しづらいような場合は、アウティングを見聞きしていた別の従業員に対しても聞き取り調査を行い、事実関係を明確にしておきます。
また、これらの調査そのものが被害者の性自認や性的指向を広めることにならないように、調査対象者に念書を書かせるなど、聞き取り内容を漏らさないための対応が必要です。

実際にアウティングが起きていたことを把握したら、被害者の希望に応じて、配置転換や謝罪の場を設けるなどの対応を検討します。
再発しないよう、加害者への十分な注意指導も忘れてはいけません。
重要なのは、事業者がアウティングの加害者を正式に処分したという事実です。
懲戒処分など必要以上に重い処分は被害者と加害者の間でトラブルになりかねないので注意しましょう。

自分の性自認や性的指向を他人に伝えることを「カミングアウト」といいます。
もし、性的マイノリティの当事者からカミングアウトを受けた場合は、よく話を聞き、誰にどこまで伝えていいのか、確認しておくとよいでしょう。
人事担当者や役員であれば、カミングアウトを受けなくても、職務上、個人の性自認や性的指向を知ってしまうケースもあります。
性自認や性的指向はプライバシーに関わる重要な個人情報であることを認識し、厳重に扱うことが大切です。


※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。