ウィルサイドコンサルティング合同会社

『社員の個人事業主化』におけるメリットと注意点とは

21.02.22
ビジネス【労働法】
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近年、社員の一部を個人事業主化し、業務委託契約を結ぶ企業が出てきて、話題になっています。
従業員との契約を正社員から業務委託に切り替えるということは、それまで結んでいた『雇用』契約を終了し、『請負』や『委任』として契約を結び直すことになります。
企業側にはさまざまなメリットがあるといわれていますが、デメリットや注意点はないのでしょうか。
今回は、社員の個人事業主化のメリットとデメリットを探っていきます。
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メリットはモチベーション向上やコスト削減

体脂肪計や体組成計などの販売で知られる株式会社タニタは、優秀な人材が主体性を発揮できるよう支援し、努力に報いることを狙いに、2017年1月から社員の個人事業主化の制度をスタートさせました。
契約の切り替えを希望する社員は、会社と協議したうえで会社との雇用関係を終了し、個人事業主として新たに業務委託契約を結びます。

また、大手広告代理店の株式会社電通は、2021年1月より、一部の正社員を業務委託契約に切り替えると発表しました。
部門に関わらず、40代以上の社員、約2,800人が対象となり、希望者は早期退職したうえで、電通が設立する新会社と新たに業務委託契約を結び、個人事業主として働くことになります。

これらの個人事業主化の社員側のメリットとしては、タニタや電通以外の他社の仕事にも関わることができること、また、時間や場所に縛られずに働くことができることなど、より自由な働き方が可能となることがあげられるのではないでしょうか。

また、企業側のメリットとしては、社員が個人事業主となることで、これまで以上に自主性を持ち、意識高く仕事に取り組んでもらえることが期待されます。
同時に、人材の流出や、モチベーションの低下などの課題も解決できるといわれていますし、場合によってはこれまで負担していた人件費(賃金、賞与、退職金、法定福利費等)を削減できるのも大きなメリットでしょう。


個人事業主に労働法が適用されることも

一方で、社員の個人事業主化にはデメリットや注意点もあります。
特に、『業務委託契約』がどのようなものかを互いによく理解していないと、思わぬトラブルにもつながりかねません。

まず、労働者側にとっては、会社との『雇用関係』がなくなることで、労働基準法の適用外となる点があげられます。
民法上では、業務の対価として金銭を得る方法として『請負』『委任』『雇用』の3種類があるとされており、業務委託契約は『請負』あるいは『委任』に該当します。
そして、このうち労働者を守る労働基準法が適用されるのは、原則として『雇用』だけです。

労働基準法における労働者は『職業の種類を問わず、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者』と定義されます。
個人事業主の場合は『使用される者』ではなくなり、また、賃金ではなく報酬が支払われることになるので、労働者とはみなされず、労働基準法も適用されなくなります。

つまり、個人事業主化した社員にとっては、残業代や解雇規制、有給休暇や労働時間の規制、さらには労災や育児休暇など、労働法が定める労働者を保護するための制度から、すべて外れることになります。
ある意味では全てが自己責任になるわけですが、個人事業主化した元社員がその意識を持っていない場合、現状に不満を持ってしまうこともあります。
もし、せっかく個人事業主化を推進したにもかかわらず、うまく機能しないとなると、それは企業側にとっても大きなデメリットとなってしまいます。

また、企業側が注意したいこととして、個人事業主化した元社員が正社員と同じように会社の指揮監督に基づいて働くような場合は、業務委託契約とは認められず、従来と同様に雇用契約として扱われることです。
たとえば、正社員のときに担当してもらっていた仕事を、業務委託契約を結んだ後も引き続き行ってもらうとします。
その場合、企業側は仕事の場所や時間を指定してはいけませんし、仕事の進め方に関しても、指示を出してはいけません。
また、たとえその仕事を断られたとしても、強制的に仕事をさせることはできません。
指揮監督下にあるかどうかは、『仕事を断る自由があるか』『業務の進め方について指揮命令を受けているか』『勤務地や時間が決められているか』『報酬の計算方法や支払い方法が正社員のものと類似しているか』で複合的に判断されます。

つまり、業務委託契約を結んだ者に対しては、正社員のときと同じように「8時に業務を開始して」や「この仕事から手をつけて」などの指揮命令をすることはできません。
もし、このように指揮命令をしてしまった場合には、業務委託契約を結んでいたとしても、労働者として扱われ、労働法の適用を受けることになります。
そうなれば残業代も発生しますし、労働時間の規定も守らなければなりません。

正社員を個人事業主化して、業務委託契約を結ぶ場合には、企業側・社員側の双方の意識の切り替えも重要になってきます。
自社に導入するかどうかは、社員ともよく相談しながら決めていく必要があります。


※本記事の記載内容は、2021年2月現在の法令・情報等に基づいています。