ウィルサイドコンサルティング合同会社

社会保険適用拡大へ! 介護事業所の保険料負担はどうなる?

20.05.07
業種別【介護業】
dummy
介護業界は、パートタイマーなどの非正規労働者の割合が極めて高い業界です。
そして、その多くは配偶者の扶養家族として、所得税や健康保険の扶養控除内で働いています。
これに対し2019年12月、政府は短時間労働者の社会保険の適用拡大を検討していることを発表。
これにより介護事業所はどのような影響を受けるのでしょうか。
その具体的な内容について見ていきましょう。
dummy
現在の社会保険の適用要件とは?

訪問介護の介護ヘルパーなどを中心に、介護業界はパートタイマーなどの非正規労働者が多く、介護事業を成り立たせるために欠かせない存在となっています。
これらのパートタイマーの大半は、配偶者の扶養家族として、所得税の扶養控除内である年収103万円未満もしくは健康保険の扶養範囲内の基準である130万円未満で働いています。
年収130万円は、月々の収入にすると約10万8,000円。
時給単価を仮に1,000円とした場合、月間の労働時間数は108時間となります。
この扶養内であれば、事業所としては雇用保険のみに加入しておけば問題ありません。

しかし、ここ数年は非正規労働者の雇用環境改善や年金財政の安定化を目的に、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の適用拡大が推進されています。
現在では、扶養内に収まっていたとしても、下記の条件を満たした場合は社会保険に加入することになっています。

【社会保険の適用要件】(2020年4月現在) 
●所定労働時間が週20時間以上
●月収8万8,000円以上(年収106万円以上)
●雇用期間1年以上見込み
●学生は対象外
●従業員規模501人以上の企業

現状では多くの事業所が『従業員規模501人以上』という要件を満たさないため、対象外となっていますが、2019年12月には、この適用要件が拡大される方針が政府より示されました。
これにより、これまで対象外とされてきた事業所にも適用拡大が進む見通しであり、多くの介護事業所もこの影響を受けると予想されます。
事業主としては、それ相応の準備をしておかなくてはならない事態です。


51人以上の介護事業所が対象に

政府の案は、社会保険への加入が義務付けられている企業規模の要件を引き下げるというもの。
現在の『従業員501人以上』から2022年10月には『101人以上』、2024年10月には『51人以上』に引き下げる案が有力で、2020年の通常国会に関連法案を提出する方向で最終調整に入ったと発表されました。

適用拡大は、年金財政の基盤強化につながります。
また、個人の自営業者や第3号被保険者など、国民年金しか加入していない人が将来的に低年金に陥らないよう年金額を手厚くするという狙いもあります。
実際、『51人以上』に引き下げた場合、厚生労働省の試算では新たに65万人が適用となる見通しで、現役会社員の年金受給額の給付水準が0.3%改善すると予測されています。
その一方で、事業主の保険料負担は1,590億円増えるという推察もあります。

前述の月収10万8,000円の方が社会保険の適用となった場合、給与の約15%が社会保険料の本人負担額となるため、これまで配偶者の扶養家族に入っていた方は1カ月当たり約1万6,000円、1年間で約19万円の負担が発生します。
そして、これと同額が会社負担額になるため、このような方が10人いた場合、年間で190~200万円の負担増が予測されます。
事業主にとっては頭の痛い話になるわけです。

一方、パートタイマー等の被雇用者目線で考えた場合、社会保険料の負担が増えることや、配偶者の家族手当がつかなくなることなどが懸念材料となります。
その結果、社会保険の適用を望まない方も数多く出てくると予測されます。
そういった人のなかには、会社規模が小さく適用基準に該当しない事業所へ転職するか、扶養家族としての地位を維持するために労働時間と収入をさらに減らすという選択をする人も多く出てくるでしょう。

いずれにしても、適用拡大の波は避けようがないと思われます。
その時のために『パートタイマーをどのように雇用するのか』『正規とパートの仕事の割り振りをどうするのか』『事業規模をどうするのか』など介護事業所としての方向性を検討し、法施行に対応できるよう、今のうちに事業計画を立案されてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2020年5月現在の法令・情報等に基づいています。