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定年延長前と後の入社で異なる『退職一時金』の税務上の取り扱い

19.08.27
ビジネス【税務・会計】
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近年、人材不足を背景に、就業規則を見直すなどして、従業員の定年を延長する企業が増えてきました。
これに伴い、定年の延長前から働いている従業員と、定年の延長後に入社した従業員とでは、支払われる『退職一時金』の取扱区分が異なります。
今回は、両者の退職一時金の税務上の取り扱いについてご紹介します。
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定年延長に伴う退職金の取り扱いは?

企業は安定した雇用を確保し、過不足のない人員配置で事業を進めていかなければなりません。
しかし、近年の人材不足を受け、なかなか新規採用もむずかしい状況です。
そこで打開策として、定年を引き上げる企業が増えてきました。

高年齢者雇用安定法により、企業における定年は60歳以上と決まっており、また、希望者は原則として65歳まで働けます。
厚生労働省の『平成29年就労条件総合調査』によると、定年制を定めていない企業が4.5%しかないのに対し、定年を定めている企業は95.5%にも及び、さらに60歳を定年にしている企業は79.3%と、大多数を占めます。
近年は、就業規則を改定するなどして、この60歳の定年を64~65歳までに引き上げる企業が目立っています。
今後の統計では、60歳を定年にする企業の割合が減少していくと予想されています。

さて、従来60歳が定年だった企業が、定年を65歳と定めた場合、退職金の取り扱いはどうなるのでしょうか。

ある企業では、従業員の入社時期に関係なく、従業員が従来の定年の60歳を迎えた時点で、退職一時金を支給すると定めています。
退職金が定年で支払われることを前提に生活設計を立てている従業員も少なくありません。
企業側の事情で定年を65歳に延長し、併せて退職金の支払いも65歳になってからにしてしまっては、この生活設計が崩れてしまう可能性もあります。
これらの理由から、従業員が従来の60歳になった時点で、退職一時金を支給するという企業側の配慮は、従業員の生活の面でもよいことといえます。


定年延長前と後の入社で区分が異なる

しかし、ここで退職一時金の取り扱いが問題になってきます。
定年を65歳に延長する前に入社した従業員に関しては、60歳で支払われる退職一時金は、いわゆる『退職所得』という区分で処理します。

退職金は、基本的には、企業年金や内部積立金によって構成されており、たとえ定年が65歳に延長されたとしても、入社から前の定年である60歳までの勤続期間に起因するため、退職一時金を退職金とみなし、その給与を退職所得とします。

一方で、定年が65歳に延長された後に入社した従業員に関しては、この限りではありません。

定年延長後に入社した従業員は、入社の時点で定年が65歳と定められていたため、いわゆる延長前に入社した従業員とは同列に扱われず、60歳の時点で支払われる退職一時金も、退職所得ではなく、『一時所得』に区分される可能性が高くなります。

退職金とは、入社から定年までの勤続期間に関わるものであるため、定年が65歳という前提で入社した従業員に関しては、60歳の時点で支払われる退職一時金は、退職金とはみなされないというわけです。


取り扱いが異なる退職所得と一時所得

退職所得と一時所得では課税の取り扱いも異なってきます。

退職所得は分離課税といって、ほかの所得とは分離して税額を計算するのに対し、一時所得は総合課税といって、その年度にほかの所得があれば、合算して税額を計算します。

また、控除額も変わってきます。

退職所得の控除額は勤続年数が21年以上の場合は『800万円+70万円×(勤続年数-20年)』という計算式、勤続年数が20年以下の場合には『40万円×勤続年数(最低80万円)』という計算式で求めます。

一方で、一時所得の控除額は、一律50万円となっています。
この50万円はほかに一時所得があれば、それも合算してから控除されます。
また、ほかの所得と合算する際に、上記計算で求めた一時所得の1/2に相当する金額を合算します。

このように、名目上は同じ退職一時金だったとしても、従業員の入社時期によって、区分が退職所得か一時所得かに分かれてしまうケースがあるのです。

もちろん、これはあくまで事例の一つにすぎず、すべての企業に当てはまるわけではありません。
しかし、定年延長をすることによって、従業員の退職一時金の控除額が変わる可能性があるということを押さえておきましょう。


※本記事の記載内容は、2019年8月現在の法令・情報等に基づいています。