ウィルサイドコンサルティング合同会社

『公益通報』を制度として正しく機能させるメリット

24.07.30
ビジネス【企業法務】
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企業内部の不正や違法行為を知った従業員が、組織の通報窓口や行政機関などに通報することを『内部告発』や『内部通報』と呼びます。
こうした通報は組織内の問題を是正するためのものですが、社会の利益にも関係することから、『公益通報』とも呼ばれます。
公益通報が制度として機能している企業は社会的な信用が高く、逆に正しく機能していない企業は信用が低くなる傾向にあります。
公益通報の正常化は企業にとって欠かせない取り組みの一つです。
公益通報の概要と、通報を行なった公益通報者の保護について理解を深めましょう。

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公益通報制度は従業員に信用されていない?

企業の不正や違法行為が従業員による公益通報によって明らかになる場合があります。
近年では、大手自動車メーカーのダイハツ工業株式会社や、中古車販売&買取会社の株式会社ビッグモーターの不正は公益通報によって明るみに出ました。

公益通報を行なった公益通報者は、『公益通報者保護法』によって守られており、同法では公益通報をしたことを理由とした異動や降格、減給、退職金の不支給、その他の不利益な取り扱いをすべて禁止しています。
公益通報を行なったことを理由とした労働者の解雇も認められておらず、通常は解雇を行なっても無効になります。

しかし、実際には公益通報者が会社から『報復』として解雇を筆頭とした不利益な取り扱いを受けるケースが後を絶ちません。
公益通報者保護法の改正法が施行された2022年6月から1年半の間に、企業への公益通報制度の不備に対する行政指導の実施は22件だったことがわかっています。
不利益な取り扱いによって心を病む公益通報者もおり、2024年5月には、大手食品メーカーの大塚食品株式会社の男性社員が公益通報後に配置転換され、仕事を与えられずにうつ病を発症したとして、損害賠償を求める訴訟を起こしました。

そして、公益通報制度に対する従業員の信頼度も決して高くはありません。
消費者庁が就労者1万人を対象に行なった2023年11月のアンケート調査では、全体の約4割弱が社内の通報窓口を「信用していない」と回答しています。
また、「通報を後悔している」と答えた人のうち、約42%が異動や待遇面での不利益な取り扱いを受けており、約57%が「不正に関する調査や是正が行われなかったから」と回答しました。

公益通報がしやすい環境の整備が求められる

公益通報者が守られなかったり、調査や是正が行われなかったりするのは、企業の根深い隠蔽体質が要因の一つとしてあり、組織の透明化が進んでいない証拠でもあります。
不正や違法行為の隠蔽は、その場しのぎというだけで、何も解決していません。
また、報復を目的とした公益通報者への不利益な取り扱いは、企業の社会的な信用を失墜させる行為にほかなりません。

一方で、現在は公益通報者に不利益な取り扱いをしても、公益通報者保護法に罰則規定が存在しないため、企業側が罰せられることはありません。
さらに、公益通報者が会社から報復として不利益な取り扱いを受けた場合、その取り扱いが報復であることを公益通報者自身が立証する必要があります。
当然、企業から情報の提供を受けなければ公益通報者は報復であることを立証できません。

このような法整備上の課題もあり、多くの企業に公益通報をしづらい風土が根づいています。
不正や違法行為が行われているにもかかわらず、従業員が通報できない・しない状況は健全な状態とはいえません。

こうした状況を打破するため、2022年6月の法改正で事業所内の「通報窓口の設置」が義務化されました。
常時使用する労働者の数が300人を超えている事業者は、通報窓口として通報の受付と調査および是正を行う「従事者」を指定する必要があります。
公益通報者を特定する情報は従事者しか扱えないうえ、もし従事者が公益通報者の氏名などを漏らすと、守秘義務違反として30万円以下の罰金が科されます。

また、公益通報の秘密保持や不利益な取り扱いの禁止などを公益通報制度の運用規程として明文化し、従業員へ周知を図ることも企業の役割とされています。
企業のトップが公益通報の意義をよく理解し、公益通報者の保護を徹底することが、公益通報を制度として正しく運用していくことにつながります。

公益通報が正しく機能している企業は、自浄作用が働き、たとえ不正や違法行為が起きても、すぐに通報・調査・是正を実行できます。
常に誠実であれば、企業イメージを大きく損なうこともないでしょう。
企業に対しては今後ますます公益通報がしやすい環境の整備が求められていきます。
社会的な信用度や企業価値の向上のためにも、環境の整備や公益通報者の保護などに積極的に取り組んでいきましょう。


※本記事の記載内容は、2024年7月現在の法令・情報等に基づいています。