佐々木税理士事務所

『労働契約申込みみなし制度』の対象となる違法派遣に要注意

24.06.25
ビジネス【労働法】
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『労働者派遣法』は派遣労働者の権利の保護や、労働派遣業の適正な運営を確保するための法律です。
この法律に違反している派遣のことを『違法派遣』と呼び、人材派遣を行う派遣元の企業も、派遣労働者を受け入れる派遣先の企業も、違法派遣にならないように注意する必要があります。
もし、違法派遣と知りながら、派遣労働者を受け入れていた場合、派遣先の企業は『労働契約申込みみなし制度』によって、その派遣労働者と労働契約を締結する必要が出てくるかもしれません。
本制度の詳細について、確認しておきましょう。
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労働契約を申し込んだことになる制度

厚生労働省の「令和4年派遣労働者実態調査」によれば、2022年10月時点において、事業所で派遣労働者が就業している割合は12.3%でした。
決して少なくない数の派遣労働者が派遣先の企業で働いていることがわかります。

欠員が出た企業や、時期によって業務量が変動する企業などは、人員の確保を目的に人材派遣会社から派遣労働者を派遣してもらうことがあります。
常に人手不足の企業では大きな助けになる派遣労働者ですが、受け入れる際に注意したいのが『違法派遣』です。
もし、違法派遣が発覚すると、その時点で労働者派遣法に基づく『労働契約申込みみなし制度』の対象になります。

労働契約申込みみなし制度は、2015年に行われた『労働者派遣法』の改正によって新設された制度で、違法派遣を防ぐことを目的としています。
まず、違法派遣により本制度が適用されると、派遣先の企業は、受け入れた派遣労働者に対して、派遣元の企業と同一の条件で労働契約を申し込んだとみなされます。
派遣労働者の雇用主は派遣元である『人材派遣会社』なので、派遣先の企業は人材派遣会社と同じ条件で派遣労働者に労働契約を申し込んだとみなされるということです。
ただし、派遣先の企業が違法派遣であることを知らず、かつ過失がない場合は、制度が適用されることはありません。

本制度によって、派遣先から労働契約の申し込みを受けたとみなされた派遣労働者は、みなされた日から1年以内に承諾する意思表示を行えば、労働契約が成立します。
つまり、派遣労働者と派遣先の企業の間で労働契約が締結されるということは、派遣労働者が派遣先の企業の従業員になるということです。
労働条件についても、賃金や雇用契約期間など、派遣元の企業と結んでいた労働契約と同じ内容になります。

制度の対象となる違法派遣5つの類型

労働契約申込みみなし制度が適用される違法派遣の類型は、以下の5つです。

(1)派遣労働者を禁止業務に従事させること
労働者派遣法では、「港湾運送業務」「建設業務」「警備業務」「病院等における医療関係業務」について、派遣労働者を派遣することを禁止しています。
これらの禁止業務に従事させると、違法派遣となります。
ただし、病院等における医療関係業務に関しては、いくつか例外があり、派遣先が直接雇用することを前提とした紹介予定派遣や、産前産後休業などの各種休業を取得する労働者の代替であれば、派遣が認められています。

(2)無許可事業主から労働者派遣の役務の提供を受けること
派遣事業は厚生労働省の認可を取得する必要があり、許可を受けていない無許可事業主から派遣労働者を受け入れた場合は違法派遣となります。

(3)事業所単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
労働者派遣法では同一の事業所において、3年を超える継続した派遣労働者の受け入れができないという『派遣期間制限』が定められており、延長手続きを行わず、派遣期間を超えての受け入れは違法派遣となります。

(4)個人単位の期間制限に違反して労働者派遣を受けること
事業所と同様に、労働者派遣法では同一の派遣労働者において3年を超える継続した受け入れができないという個人単位の期間制限も設けられています。

(5)いわゆる偽装請負等
労働者派遣法や労働基準法の適用を免れる目的で、派遣労働者と請負契約を結んでいた場合は、いわゆる偽装請負等として、違法派遣となります。

このような違法派遣を行うと、労働契約申込みみなし制度の対象になります。
対象になった場合、派遣先企業が希望していなくても、派遣労働者に労働契約の申し込みをしたことになり、派遣労働者が承諾した場合はその人を雇用することになります。
人事計画にない派遣労働者の直接雇用は、人件費の増加や組織の混乱などが引き起こされるかもしれません。
派遣労働者を受け入れる際は、違法派遣にならないように注意しましょう。


※本記事の記載内容は、2024年6月現在の法令・情報等に基づいています。