佐々木税理士事務所

『ドラッグ・ラグ』解消の動きと『患者申出療養』について

24.04.30
業種別【医業】
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欧米で使用されている医薬品が日本で承認されるまでには、長い年月を要する場合があり、この時間的な遅延についての問題を『ドラッグ・ラグ』と呼びます。
また、海外で使用されている医薬品が日本では未承認なだけではなく、開発すらされていない問題のことを『ドラッグ・ロス』といいます。
医師であれば知っておきたいドラッグ・ラグやドラッグ・ロスの解消に向けた動きや、国内未承認薬をいち早く使いたい患者を支える『患者申出療養制度』について、説明します。
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なぜ『ドラッグ・ラグ』が起きてしまうのか

日本で2000年代に社会問題化したドラッグ・ラグなどの問題は、2024年現在も解決していません。
遅延が起きるのは、国内で効果や安全を確認するための審査と、治験を含む臨床試験が必要になるからです。

審査や臨床試験にかかる時間は国ごとに違います。
世界のいずれのかの国で新薬が初めて登場してから自国で発売されるまでの平均的な期間を見てみると、2007年時点のデータでアメリカは1.2年、イギリスは1.3年、ドイツは1.4年、フランスは2.2年、韓国は3.6年、そして日本は4.7年もかかっています。
現在までに、この差は大きく改善されていません。

日本がこれだけ遅れているのは、臨床試験環境が整っていないことが原因の一つにあげられています。
日本は海外に比べて病院の規模が小さいため、臨床試験を効率的に行うことができず、承認も遅れてしまう傾向にあります。
これを改善するために、厚生労働省では2015年から医療法に基づき、革新的な医薬品・医療機器などの開発を推進するため、臨床研究の中心的な役割を担う病院を『臨床研究中核病院』として位置づけました。
現在は、全国15の病院が臨床研究中核病院として承認されています。

ほかにも、厚生労働省では医薬品の承認審査機関である『医薬品医療機器総合機構(PMDA)』の審査官の増員といった対応も行われています。
審査をする人が増えれば、それだけ承認されるスピードが早くなるということです。
同時に、日本だけではなく、複数の国で治験を行う国際共同治験も実施し、時間の短縮を図っています。
こうした取り組みの結果、欧米と同時期に日本でも承認した医薬品や、日本が他国に先駆けて承認した医薬品なども出てきました。

しかし、ドラッグ・ラグを完全に解消するまでには至っておらず、欧米で承認されている新有効成分含有医薬品(NME:New Molecular Entity)の国内未承認薬数の割合は2016年以降増加し続けています。
2016年から2020年までの5年間において、欧米で承認された医薬品243品目のうち、176品目が日本で承認されておらず、国内未承認薬の割合は72%にもなります。

患者の選択肢を増やす患者申出療養制度

官民一体となって、ドラッグ・ラグやドラッグ・ロスの解消に向けて動いていますが、病気が進行中の患者にとっては、効果が期待できるのであれば、すぐにでも国内未承認薬を使用したいところです。
そこで、選択肢としてあがるのが『患者申出療養制度』の利用です。

これまで、日本で未承認の医薬品を使用するには、海外から個人輸入するという方法がありました。
しかし、医薬品の個人輸入は、偽造品を購入してしまうリスクや安全性などの問題があります。
また、日本では『保険診療』と、保険適用外の『自由診療(保険外診療)』を併用する『混合診療』が認められていません。
混合診療を行なった場合、保険診療が適用される診療などがあったとしても、それらもすべて保険給付の対象外となり、すべての診療が患者の自己負担となってしまいます。
国内未承認薬の使用は自由診療扱いとなるため、未承認薬を使用した場合、すべての診療が保険給付の対象外となり、全額自己負担となります。
ただでさえ未承認薬の購入は費用がかかることが多く、患者の経済的な負担は計り知れません。

こうした国内未承認薬を使用するハードルを下げるために、2016年4月から『患者申出療養制度』が導入されました。
この制度は、保険外診療を受ける場合でも、厚生労働大臣が定めたものについては保険との併用が認められる『保険外併用療養費制度』のうちの一つで、利用する場合は患者からの未承認薬を使用したいという申し出が必要になります。

申し出を受けた主治医は患者と相談しながら、適宜、臨床研究中核病院等と連携を取り、計画書の作成や国の会議を経て、治療を実施します。
患者申出療養制度を利用した場合、未承認薬の分は保険適用外なので、患者の全額自己負担となりますが、保険が適用される療養の部分が通常通り保険給付の対象となるため、その分の患者の負担は減ることになります。

患者申出療養制度は保険診療と併用して未承認薬を使用できる制度ですが、最終的に制度を利用するかどうかは患者の判断になります。
主治医は未承認薬に関する知識の提供や、病状に合わせた治療法の提示などを行いながら、患者が納得するまで話し合いを重ねることが大切です。


※本記事の記載内容は、2024年5月現在の法令・情報等に基づいています。