佐々木税理士事務所

サロンスタッフの離職防止~サロンの人事評価制度について~

23.04.04
業種別【美容業】
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美容業界は離職率が高い業界であるといわれています。
拘束時間が長いほか、業務がハードであること、給与や休日が少ないことなどがその理由ともいわれています。
しかし、これらの労働条件を改善するだけでは、スタッフを定着させ、離職率を下げるための対策としては不十分です。
労働条件の改善と並んで不可欠なのが『人事評価制度』です。
この記事では、なぜスタッフの定着に人事評価制度が必要なのか、人事評価制度が正しく機能することでどのようなメリットがあるのかなどを解説します。
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納得性の高い人事評価制度を目指す

厚生労働省が発表した『新規学卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)』によれば、専門学校卒業が含まれる短大卒業者の美容・理容師を含む『生活関連サービス業・娯楽業』の3年以内離職率は57.4%となっています。
これは、『宿泊業、飲食サービス業』の57.3%と並んで、他業種に比べ高い数字となっています。

美容業界の離職率の高さの原因は、拘束時間が長い、給与が少ない、休日が取りにくいなどの労働条件が影響しているといわれています。
しかし、離職率の高さの原因は、労働時間や給与などの労働条件だけにあるのではありません。
もちろん、適正な労働条件はスタッフ定着の基盤であり、もし労働条件が業界平均以下であるなら、これを改善する必要があります。
ところが実際には、給与水準や年間休日数などはほとんど同じにもかかわらず、スタッフが定着している店と入れ替わりの激しい店がありますが、その差は、人事・人材施策にあるといえます。
それはどうしてでしょうか。

人事・人材施策とは、働く人のやる気を引き出したり、働く店、会社への愛着心や責任感を強化したりするための取組のことです。
人事・人材施策にはさまざまなものがあり、スキル・能力向上を支援する制度や、目指すサービスや取組を行ったスタッフを表彰する制度、フレックス制度、在宅勤務制度なども、人事・人材施策の一つです。
人事・人材施策のなかでも人材育成の基盤となるのが、『人事評価制度』です。
人事評価制度とは、スタッフの能力や実績、仕事に対する姿勢を評価し、賃金や昇進などの待遇に反映させる仕組みをいいます。

公平性の高い人事評価制度は、どのような行動をとると評価されるのかといった評価基準とそれに応じた賃金体系を明示しているため、従業員に納得感を与えます。
また、経営理念から落とし込んだ事業戦略や行動規範を明文化することで、従業員の目標も定まり、モチベーション向上や組織に対する信頼感を引き出すことも可能になります。

反対に、人事評価制度を導入しても公平性が低く、「経営者に気に入られないと評価されない」「頑張っても評価されない。昇進・昇格しない」とスタッフが感じているような場合には、スタッフはやる気を出せず、やがて離職へとつながってしうおそれがあります。
そのため、スタッフの定着率を上げ、モチベーションを引き出すためには、給与や休日などの労働条件の整備と並んで、公平で納得性の高い人事評価制度を導入・運営することが大切なのです。


人事評価制度の基本的な考え方

それでは、人事評価制度を構築する際の基礎となる考え方について解説しましょう。
企業によって制度の名称や内容はさまざまですが、基本的には業績や成果を評価する『業績評価』と、個人の能力や責任感などの発揮に関する『能力評価』の2本立てで設計されています。

業績評価は、期ごとに設定される売上や業績目標に対する個人の貢献度に関する評価です。
まず、業績評価の指標(売上目標、利益率、顧客数、リピーター率など)を明らかにしておく必要があります。
各人の頑張りを反映するために、店舗全体の業績目標とあわせて、リピーター獲得率などの個人の行動によって変動する部分を評価軸として設定することもできます。

能力評価は、従業員に与えられた職務を遂行する評価を指しますが、各人の技術や接客スキルなどの達成度合いや、店内での役割に関する達成度合い、責任感や姿勢などが含まれます。
能力評価の内容を知識・スキル部分と、責任感や勤務態度などの情意部分に分けるケースもあります。

ヘアサロンで能力評価を実施するには、各ポジションの能力評価項目を事前に決めておく必要があります。
マネジャーやリーダーになれば、部下指導や店舗運営に関わる項目も、評価項目に入ってくるでしょう。
また、継続的な技術の更新・修得が必用不可欠な職業であることを考えると、自己研鑽や学習状況などに関することも、評価項目に入れるとよいかもしれません。

各スタッフの期ごとの評価は、業績評価と能力評価の組み合わせで決定します。
ポジションによって業績評価と能力評価の割合が異なり、上位者になればなるほど業績評価の割合が大きくなるのが一般的です。
たとえば、店長と新卒スタッフとでは店舗の売上目標に対する責任度合いが異なるからです。
一例として、店長の場合は個人評価における業績評価の割合は90%で、能力評価は10%、マネージャークラスであれば75%と25%、リーダークラスは50%と50%、一般スタッフになると20%と80%といった形です。

美容師は、本人のやる気とスキルによって成長しやすい職業だといえます。
これらの評価項目や評価の割合を事前に示し、期初に制度の意図を伝え、スタッフ個人の気持ちを聞き、期末に評価に関するフィードバックを行うことで、評価に対する納得感を醸成することが可能になります。

人事評価制度の導入・設計・運用は、店舗全体で取り組むべき大きなプロジェクトです。
スタッフの離職率が高いと悩んでいる店舗では、人事評価制度の見直し・適正化することで、大きな効果を得られる可能性があります。
スタッフにとって働きがいのあるサロンにするためにも、人事評価制度の導入や、環境づくりについて検討してみてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2023年4月現在の法令・情報等に基づいています。