佐々木税理士事務所

押さえておきたい『知財・無形財産ガバナンスガイドライン』

22.04.12
ビジネス【企業法務】
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政府により2022年1月28日付で、『知財・無形資産の投資・活用戦略の開示及びガバナンスに関するガイドライン』(以下、知財・無形資産ガバナンスガイドライン)が公表されました。
このガイドラインでは、知財・無形資産に関して企業がとるべきアクションが定められています。
その概要を説明します。
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コーポレートガバナンス・コードの改訂

そもそも、コーポレートガバナンス・コードとは、日本取引所グループが作成している上場会社のコーポレートガバナンス(企業統治)に関連するルールです。
コーポレートガバナンス(企業統治)自体は、会社が透明性を保ち、公正な意思決定や運営を行うための仕組みを意味します。
すなわち、コーポレートガバナンス・コードとは、日本取引所グループによる『コーポレートガバナンスのガイドラインとして参照するための原則であり、指針』ということができます。

今回の改訂では、新たに知的財産に関する文言が書き加えられました。

コーポレートガバナンス・コードは、法律ではありません。
しかし、違反した場合には、上場契約上の違反として違約金が発生したり、取引所による公表措置の対象となったりするおそれがあります。
また、基本的に上場企業に対するルールではありますが、非上場企業、中小企業にとっても無縁ではありません。
なぜなら、非上場企業においてコーポレートガバナンスに関連する紛争が生じた際に、コーポレートガバナンス・コードに沿っていた場合には問題がないと判断される可能性が高い一方で、沿っていない場合には問題があると判断されるおそれがあるためです。

『知財・無形資産ガバナンスガイドライン』は、政府が2021年6月の『コーポレートガバナンス・コード』の改訂を受けて作成したものです。
そして、このコーポレートガバナンス・コード改訂を受けて策定された知財・無形資産ガバナンスガイドラインでは、規定の対象として、『上場企業・非上場企業(中小・スタートアップ含む)の取締役、経営陣』をあげています。
上場・非上場を問わず、コーポレートガバナンス・コードおよび知財・無形資産ガバナンスガイドラインが重要であることは覚えておきましょう。


知るべき5つの原則と取るべき7つの対策

知財・無形資産ガバナンスガイドラインでは、新たにどのようなことが規定されたのでしょうか。

『企業は知財・無形資産の投資・活用戦略の構築・実行の取組を進めていくとともに、戦略の開示、発信を通じて、より優れた知財・無形資産の投資・活用戦略を構築・実行している企業の価値が向上し、更なる知財・無形資産への投資に向けた資金の獲得につながることが期待される』
『こうした企業の取組が加速されるよう、企業がどのような形で知財・無形資産の投資・活用戦略の開示やガバナンスの構築に取り組めば、投資家や金融機関から適切に評価されるかについて、分かりやすく示すために、本ガイドラインの検討、作成が進められたものである』

以上のように規定されました。
今後、企業の取締役、経営陣が知財・無形資産に関して取るべきと考えられる方法が記載されているので、企業規模を問わず、内容を確認していくことが大切です。

ガイドラインでは、企業が新たな知財・無形資産へ積極的な投資を行い、国際競争を勝ち抜いていくために、投資家や機関投資家が重視する視点を『5つのプリンシプル』として掲げ、そのために企業が取るべき対策を『7つのアクション』として以下のようにまとめています。

●5つのプリンシプル
(1)『価格決定力』あるいは『ゲームチェンジ』につなげる
(2)『費用』ではなく『資産』の形成と捉える
(3)『ロジック/ストーリー』として開示・発信
(4)全社横断的体制整備と『ガバナンス構築』
(5)『中長期視点での投資』を評価・支援

●7つのアクション
(1)現状の姿の把握
(2)重要課題の特定と戦略の位置づけの明確化
(3)価値創造ストーリーの構築
(4)投資や資源の配分の戦略の構築
(5)戦略の構築・実行体制とガバナンス構築
(6)投資・活用戦略の開示・発信
(7)投資家等との対話を通じた戦略の錬磨

5つのプリンシプルをより具体化したものが、『7つのアクション』となります。

このようにガイドラインでは、現状を把握したうえで、知財・無形資産を活用する方法の構築と開示、それらに対するガバナンスの構築を中心に取り組むよう推奨しています。

各企業においては、ガイドラインの内容を踏まえ、制度設計をしていくことが求められます。
自社がどのような対応を取れるのか検討していきましょう。


※本記事の記載内容は、2022年4月現在の法令・情報等に基づいています。