佐々木税理士事務所

内縁成立の要件と法的効果とは? あまり知られていない内縁の定義

20.10.13
ビジネス【法律豆知識】
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時代の変化に伴い、男女の関係性についても多様な価値観が認められるようになりました。
『夫婦』や『家族』についての考え方もさまざまで、籍は入れても住居を共にしない別居婚や、男性と男性、女性と女性による同性婚など、いくつもの形が存在しています。
今回はそのなかでも、夫婦である意識を持ちながら籍は別々である『内縁』という関係についてご説明します。
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法律上の制度はないが、位置づけはある

『内縁』という関係には、どのような意味があるのでしょうか。
多くの人は、「そんなの簡単。結婚していない夫婦のことでしょう」とすぐに答えられるでしょう。
その通り、内縁とは『社会通念上夫婦となる意思をもって共同生活を送っているが、婚姻の届出がないために法律婚とは認められない男女の関係』のことをいいます。

内縁という関係に対し、法律上の制度はありません。
では、内縁の法的な位置づけや、その要件・効果はどのようなものなのでしょうか。

民法では、法律婚の法的効果について以下のように規定しています。

●法律上の離婚原因がなければ離婚できない
●婚姻費用の分担として収入の多い配偶者が収入の少ない配偶者に対して生活費を渡す義務がある
●離婚する際には財産分与という形で財産の清算をしなくてはならない

婚姻関係自体、あるいは、配偶者の地位に対して法律的な保護を与えることによって、家族制度の根幹を形成・維持しようとしているわけです。

一方で、日本の民法は法律婚を前提として家族制度を構築していることもあり、民法のなかに『内縁』という言葉は出てきません。
しかし、たとえば、決まった男性と生活を共にして専業主婦的な生活をしている人が、婚姻届を出していないという理由で上記のような保護を得られないとしたらどうなるでしょうか。
その昔は、跡継ぎを妊娠・出産するまで嫁として認められないといった理由で婚姻届を出せない女性が多くいました。
現金収入を得ずに家事を営んでいた女性にとっては極めて酷な状態であるといえます。

そこで裁判所は、法律婚の規定を準用(類推適用)するという形で、内縁関係にも法律婚に準じた法的効果を与え、内縁の配偶者を保護してきたのです。
現在でも、民法に『内縁』という概念はありませんが、確立した判例として、内縁という概念が認められているということになります。


必要なのは夫婦である意思と生活の事実

一般的に、内縁が成立するためには、

(1)社会通念上の夫婦として生活していこうとする意思(婚姻意思)
(2)夫婦としての生活の事実(現実の生活実態)

が必要であるとされています。
裁判所では、個別の事案ごとにあげられるさまざまな事実を総合的に考慮して、上記の要件に当たるか否かを判断することになります。
したがって、巷でよくいわれている「指輪を貰ったら」「一緒に住んでいれば」「結納をあげていれば」というような条件は、裁判所において考慮される要素の一つという位置づけにとどまり、必ずしも、それだけがあればよいというわけではありません。

なお、裁判所において重視される事実として、住民票で同一世帯になっているか否かという点があげられます。
また、法律婚をしていない男女が同一世帯に入る場合、女性の続柄を『妻(未届)』とすることがあります。
そういった事実が、上記(1)(2)の要件を強く推認させる重要点であると裁判例でも言及されています。

最後に、財産分与や相続にまつわる内縁の法的効果について説明します。
先にもお伝えした通り、内縁の配偶者に対して可能な限り法律婚と同様の保護を与えましょうというのが、内縁関係を認める判例の趣旨になります。
したがって、婚姻費用の分担や財産分与については、法律婚の規定が準用されることになります。
一方で、戸籍への記載が前提となる同一氏への変更の規定や、成年擬制(満20歳に満たない者が結婚をすることにより、成年に達したものとみなすこと)、子の嫡出性(妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定すること)に関する規定については準用が否定されることになります。

相続についても、最高裁判所の判例において明確に準用が否定されています。
そのため、内縁の配偶者に自身の財産を遺すためには、相続という形をとることができません
あくまでも、遺言を書いて、相続人ではない第三者に遺贈するという形をとる必要があります。

仕事の種類も働き方も、次々と新しい形が登場している現代において、籍を入れずに同居を続ける男女も多くなっています。
自身には無関係であっても、内縁という関係の在り方について、きちんとした知識を得ておくとよいでしょう。


※本記事の記載内容は、2020年10月現在の法令・情報等に基づいています。