佐々木税理士事務所

同じ商圏で出店禁止!? 独立するスタッフとの『競業避止義務契約』

24.08.06
業種別【美容業】
dummy

美容室のオーナーであれば、スタッフが独立開業するシーンに何度も立ち会うことになると思います。
仲間の旅立ちは快く送り出したいものですが、状況によっては、シビアにならなければいけないケースもあります。
もし、独立したスタッフが自分の店の近隣で開業した場合、お客を奪われてしまうかもしれません。
そうならないためにも、独立するスタッフと結んでおきたいのが『競業避止義務契約』です。
トラブルを避けるために必要な契約の中身について説明します。

dummy

独立するスタッフを応援できない理由とは

厚生労働省が公表した『衛生行政報告例』によれば、2022年時点で全国に27万軒近くの美容室が存在しており、年々その数は増加傾向にあります。
1日あたり41軒以上の美容室が新規出店しているというデータからも、毎年多くの美容師が独立して開業していることがわかります。

美容室の開業にかかる費用の相場は一般的に1,000万円~といわれていますが、「店舗を小規模にする」「設備をリースで揃える」などの工夫によって、開業資金を300万円ほどに抑えることも可能です。
そのため、必要な施術や接客のスキルさえ身につけていれば、独立開業できる可能性は高いといえるでしょう。

一方、美容室のオーナーにしてみれば、スタッフの独立は優秀な人材の流出を意味するため、抜けた穴を埋める人員の補充や低下した売上の回復など、さまざまな対応に追われることが予想されます。

美容室において、アシスタントからスタイリストになるまでには、平均して2~3年かかるといわれています。
苦楽を共にしたスタッフの成長は嬉しいものですが、独立となると手放しで喜べることばかりではありません。
特に危惧しなければならないのが、スタッフの独立によって自分の店に悪影響が出る可能性があるという点です。

たとえば、独立したスタッフの美容室と自分の店の商圏が重なっていた場合、自分の店のお客を取られてしまうかもしれません。
商圏とは一つの店が集客できる範囲のことです。
店の規模や立地などによって大きく異なるものの、美容室においてはお客が歩いて10分弱で到着する500メートルくらいの範囲が一般的な商圏とされています。
つまり、自分の店から1キロメートル以内に独立したスタッフが新規出店した場合、商圏が重なることになるため、自分の店が不利益を被る可能性があるということです。

同じ商圏での出店を禁止するための契約

自分の店の商圏に新規出店させることを防ぐには、スタッフが独立する前に『競業避止義務契約』を結ぶ必要があります。
この契約は「独立して新規出店する際に、この店の商圏では開業しないように」という約束を意味します。

契約の内容は店によってさまざまですが、あまり内容を厳しくしすぎると、日本国憲法で保障されている「職業選択の自由」を制限することになるため、契約が無効となる可能性があります。
たとえば、「すべてのスタッフは店の半径50キロメートル以内で、今後20年に渡って競業しないこと」のような現実的ではない契約は認められません。
契約の有効・無効は裁判によって決められますが、無効にならないためには、それぞれの項目について、『加減』を把握しておくことが大切です。

具体例として、すべてのスタッフと一律に競業避止義務契約を結んでいる場合は、契約が無効になりやすい傾向にあります。
高度なスキルを有していたり、店の重要な営業機密を把握していたりするスタッフに限定して契約を結ぶほうが、有効になりやすいとされています。

また、出店を禁止するエリアの範囲も重要です。
商圏を大幅に超えた広範囲のエリアを出店禁止に指定すると無効になる可能性が高くなります。
チェーン展開していない1店舗のみの美容室の場合、独立開業するスタッフに対して商圏の範囲内での出店を禁止する契約であれば認められる可能性は高いでしょう。

競業禁止の期間についても、1年以内であれば、比較的有効とされやすい傾向にありますが、3年や5年だと無効になる可能性が高くなります。
さらに、競業避止義務の対価として競業避止手当などを支払っていた場合は、有効になりやすい傾向にあります。

競業避止義務契約は「この内容であれば絶対に無効・有効になる」といえるようなものはなく、店の規模や状況によって個別に裁判所が判断します。
あまりに常識外の契約だと裁判で無効になるうえに、独立開業するスタッフとの間に禍根を残すことにもなりかねません。
まずは、法律に詳しい専門家などと相談し、双方が納得できる競業避止義務契約を作成するようにしましょう。


※本記事の記載内容は、2024年8月現在の法令・情報等に基づいています。