税理士法人笠松・植松&パートナーズ

『採算度外視』は違法? 独占禁止法が規制する『不当廉売』とは

21.07.27
ビジネス【企業法務】
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通常、商品やサービスの値段は販売する企業が決めますが、その際、あまりにも採算を度外視した安い価格で販売してしまうと『不当廉売』とみなされる可能性があります。
不当廉売は、独占禁止法で規制されている不公正な取引方法の一つで、これに該当すると是正を命じられる、罰則が科されるなどの行政処分が下されることがあります。
不当廉売がなぜ規制対象になるのか、またどのような行為がそれにあたるのかについて解説します。
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不当廉売が禁止されている理由

商品やサービスを販売する際に、安価であることをセールスポイントの一つとすることがあります。
安さを実現できるのは企業努力の賜物ではありますが、一方で、行き過ぎた低価格での販売は、同業他社との健全な競争を阻害し、消費者に不利益をもたらす可能性があるため、法律で規制する必要があると考えられてきました。

なかでも、ここで扱う不当廉売とは、いわゆるダンピングと呼ばれる、採算を無視して、不当に安い価格で商品やサービスを販売する不公正な取引方法のことです。

商取引に不当廉売の疑いがある場合には、公正取引委員会が審査を行います。
審査によって不当廉売と認められた場合には、排除措置命令が出され、該当する商取引が行えなくなります

さらに、調査開始日から遡り10年以内に同一の違反行為によって排除措置命令か課徴金納付命令を受けていた場合には、課徴金納付命令が下されます。
課徴金納付命令とは、対象商品の売上額または購入額に、事業者の規模に応じた算定率を掛けて計算した額を国庫に納付することをいいます。

また、この排除措置命令に違反した場合は、2年以下の懲役または3億円以下(違反者には300万円以下)の罰金が科されることになります。

厳しい罰則が定められている不当廉売ですが、単純に安価で商品を販売しているだけでは、該当することはほぼありません。
独占禁止法の目的は公正かつ自由な競争を維持・促進することにあり、価格競争の結果の低価格販売は“公正かつ自由な競争”の観点からも認められています。


不当廉売とみなされる3つの条件とは

では、どのような場合、不当廉売に該当するのでしょうか。

不当廉売は、独占禁止法第2条第9項第3号によって『正当な理由がないのに、商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給することであって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるもの』と規定されています。

つまり、下記の3つの条件全てに当てはまるものが、不当廉売に該当することになります。

(1)継続して販売される商品やサービスの価格が総販売原価を著しく下回っていること
(2)ほかの事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること
(3)正当な理由がないこと

(1)の総販売原価とは、人件費や原材料費、輸送費など全てのコストの合計です。
正当な理由がなくコストを著しく下回った価格で商品やサービスを提供し、それによってほかの事業者の商品が売れなくなってしまう状況ができてしまう場合、不当廉売になってしまいます。

ここでもっとも注意すべきなのは、(3)の“正当な理由がないこと”です。
たとえば、小売業者が需要の見込み違いで大量に商品を仕入れてしまい、やむを得ず原価を下回る価格で販売することは、正当な理由になるため不当廉売には該当しません。
同様に、季節はずれのファッションや賞味期限の迫った食品などをバーゲンセールやタイムセールとして安価で販売することも不当廉売にはなりません。

一方で、競合他社の商取引を妨害する目的で、わざと大量に商品を仕入れ、極端に安価な値段で販売する行為は不当廉売に該当する可能性があります。

違反かどうかは、正当な理由がないという前提があったうえで、販売している期間や商品の特性、他社へ及ぼす影響なども加味して、公正取引委員会が判断します。
したがって、商品やサービスを他社よりも安価で消費者に提供するセールやキャンペーンを行う際には、どのような事例が不当廉売に該当するのかを知っておくことが大切です。

公正取引委員会のホームページでは、独占禁止法について、年度別、行為類型別、産業分類別に分けて相談事例を公表しています。
不当廉売についての事例も掲載されているため、企業の法務担当者は念のためチェックしておくとよいでしょう。


※本記事の記載内容は、2021年7月現在の法令・情報等に基づいています。