税理士法人笠松・植松&パートナーズ

争族を避けるために……押さえておくべき相続対策の3つの柱

20.08.03
業種別【不動産業(相続)】
dummy
家族の誰かが死亡すると相続が発生し、相続人の間で遺産を分割することになります。
このとき、相当の資産がある場合は、決して低額でない相続税を納付しなければなりません。
相続は『争族』とも称されるように、往々にして、家族間・親族間で深刻な紛争が生じ、抜き差しならぬ関係に陥ることがあります。
したがって、このような紛争を避け、スムーズに相続ができるように前もって相続対策を講じておくことが肝要です。
dummy
相続税を低く抑えるためにできること

相続対策としてまず考えられるのは、相続税を抑制、低減する『節税対策』でしょう。
相続税は、相続財産の価額(控除額を引く)に税率をかけて算出し、基本的には現金で一括納付するものです。
これを踏まえると、節税対策としては、(1)相続財産を減らす、(2)相続財産の評価額を下げる、ということがポイントとなります。

(1)相続財産を減らす
相続財産を減らす方法として代表的なものが、生前贈与です。
原則として、生前贈与には相続税よりも高率な贈与税がかかりますが、年間110万円までの贈与であれば贈与税はかかりません。
そこで、年110万円の生前贈与を5年間続ければ、合計550万円の相続財産を減らすことができます。

また、特別な目的のため、すなわち、住宅取得資金や教育資金、結婚・子育て資金などのために子や孫に生前贈与する場合、限度額(1,000万円ないし1,500万円)以内であれば特例で非課税となります。
婚姻期間20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与や居住用不動産を取得するための金銭の贈与に対しては、最高2,000万円の控除が認められています。

(2)相続財産の評価額を下げる
相続税は、相続財産の評価額に応じて課税されるので、評価額を減らす方策も必要となります。
同じ価値の現金と不動産がある場合は、不動産の相続税評価額は80%程度に減額されます。
したがって、節税対策として不動産を購入するケースは多くあります。
ただし、不動産の価額は変動するので、購入の際は、相続発生の頃までに価額がどうなるのかを考える必要があります。

次に、市街地など評価額が高くなりやすい土地を所有している場合は、分筆したり、土地上に建物を建築したりすることで評価額を下げることができます。
遊休土地(土地取得後2年以上利用されていない土地)などの場合、これをほかへ賃貸したり、アパートなどを建築して賃貸したりすることで、貸家建付地として評価額を抑えて節税効果をあげることができます。

また、被相続人と相続人が同居して生活を同一にしているケースにおいては、その相続人がその自宅(面積330㎡まで)を引き継ぐ場合は、評価額が80%減額されます。
したがって、相続人が自宅を引き継ぐのであれば、その予定の相続人と同居しておくなどの対策を立てておくとよいでしょう。


相続税を納めるための資金を準備しておく

相続税の申告・納付は、相続発生日の翌日から10カ月以内にしなければなりません。
また、相続税は、原則として現金で納付する必要があります。
したがって、その資金を相続税納付期限までにどのようにして用意するかという納税資金対策も重要です。

相続時の資金を増やす方策としてまず考えられるのは、被相続人を被保険者とする生命保険でしょう。
生命保険は、相続が発生したときに受取人にまとまったお金が入るので納税資金に充てることができます。
生命保険金は、みなし相続財産になりますが、『500万円×相続人数』の金額までは非課税となるというメリットもあります。

納税資金対策としては、このほかにも、空き地などの遊休資産を売却したり、土地や建物を賃貸する賃貸事業によって得られる賃料を蓄えておいたりすることが考えられます。
ただし、遊休資産の売却により売却益が出ると、所得税を納付する必要が出てきます。


遺産分割で揉めないために事前に話し合いを

相続が発生すると遺産分割の問題が生じます。
したがって、相続対策としては、相続人がどの財産を取得するかという遺産分割についての対策も重要です。

遺産分割の対策としては、遺産を相続人の誰がどのように取得するかについて、生前に被相続人が自分の意思で定めておくこと、すなわち、遺言をしておくことがあげられます。
このとき、単に相続時に残る財産だけでなく生前贈与した財産も含めて明らかにし、そのうえで、たとえば事業の承継者に事業資金を含む資産を承継させたいときなど各相続人に平等に分割しない場合は、遺留分(法定相続分の2分の1)に抵触しないように各相続人の取得分を決めることが肝要です。

また、遺言というと、相続人の間で、後々にその効力が問題にされることがあるので、遺言能力が問題にならない時点で遺言書を作成しておくことも重要です。
改正相続法により、遺産目録などの別紙は自書する必要がなくなり、遺言書(自筆証書遺言)を作成しやすくなりました。
遺言は、何回でもやり直すことができるので、あまり深刻に考えずに、死後の相続人同士の調整に役立てるためにも、被相続人の意思(遺志)を明確にして遺言書を作成しておくべきでしょう。

以上の『相続税対策』『納税資金対策』『遺産分割対策』が、相続対策としてまず知っておきたい3つの柱です。
このほかにも重要な事柄はいくつもありますが、まずはこの3点について早いうちから考えておくとよいでしょう。


※本記事の記載内容は、2020年8月現在の法令・情報等に基づいています。