税理士法人笠松・植松&パートナーズ

義父の療養看護に尽くした嫁……それでも遺産はもらえない?

18.12.25
業種別【不動産業(相続)】
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2018年7月13日公布の改正相続法で、亡くなった被相続人の介護や看病をしてきた親族に対し、それまではなかった一定の見返りが得られるようになりました。 
これまで、高齢の両親の介護や看病は『長男の嫁』が担う風潮が少なからずありましたが、『長男の嫁』は介護をした義両親の遺産相続はできず、その不公平感が指摘されていました。
しかし今回の制度改正で、相続人以外による金銭請求権が認められるようになりました。 
今回は、この相続に関する規定の改正点を、事例を交えながらご紹介します。
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夫が死亡していれば 
相続財産分配はない 

【事例】 
Aさんは早くに妻を亡くし、長男夫婦と同居していましたが、3年前に長男が病死してからは急速に心身が弱り、その症状が日々悪化した後、数年後に死亡しました。
遺産として、長男夫婦と同居していた自宅のほかに、マンション一室と相当額の預貯金がありました。 
Aさんの長男の妻であるB子さんは、義父であるAさんの日常生活の世話をしていましたが、夫の死亡後も婚家に残り、Aさんの療養看護等に携わり、Aさんが亡くなるまでその介護に尽くしていました。 
Aさんには、長男のほかに二男と長女がいましたが、いずれも遠方に住んでいて、実家にも年に1、2回訪れる程度で、Aさんの世話をB子さんに任せ、Aさんの介護をまったく行っていませんでした。 

本件事案でB子さんは、相続では何も考慮してもらえないのでしょうか? 

現行民法(相続法)では、Aさんの相続人である二男と長女は、被相続人であるAさんの介護をまったく行っていなかったとしても、相続財産である自宅、マンションと預貯金を各1/2ずつ取得することができます。 
他方で、亡長男の妻であるB子さんは、どんなに被相続人であるAさんの介護に尽くしても、相続人ではないため、被相続人の死亡に際して相続財産の分配にはあずかれません。 
もし長男が健在であれば、B子さんがした療養看護について、長男の寄与分として考慮されることもありましたが、長男が死亡してしまっている状態では、B子さんは何も受け取ることができないのです。 


法改正で『特別寄与料』の請求が可能に 

改正相続法では、このような不公平感を解消し、妥当な解決を図るために、相続人以外の者の特別寄与が認められることになりました。 
すなわち、被相続人の療養看護などのサービスによって被相続人の財産の維持や増加に貢献した者を『特別寄与者』とし、相続人に対して寄与に応じた金銭(特別寄与料)の支払を求めることができるようになりました(1050条1項)。 

まず、請求できる者ですが、『被相続人の親族』と定められています。 
『親族』とは、6親等内の血族、配偶者および3親等内の姻族です。 
たとえばAさんの甥・姪は3親等血族に、いとこは4親等血族に、いとこの子は5親等血族に該当します。
B子さんは、被相続人Aさんの1親等姻族に該当し、Aさんの長男である夫が死亡しても姻族関係終了の意思表示をしていないので、Aさんとの姻族関係は継続しています。 

そして『特別寄与』とは、『被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした』と定められています。
ここで注意しなければならないのは、直系血族および兄弟姉妹は、互いに扶養する義務があり(877条)、直系血族および同居の親族は、互いに扶(たす)け合わなければならない(730条)とされていることです。
したがって、特別寄与は、通常の親族間の扶養の範囲を超えた特別なものと認められるようなものでなければなりません。 
たとえば、B子さんが仕事をしていて、Aさんの介護のために離職してその介護に当たるというように、B子さんが特別な犠牲を払ってAさんの療養看護に努めた場合などは特別寄与が認められやすいでしょう。
また、病弱なAさんの日常生活を援助するためにB子さん自らが介護士や家政婦さんを雇ったりした場合なども認められやすくなるでしょう。
なお、B子さんがすでにAさんから生前に相当の対価を受け取っている場合は、特別寄与料の請求はできません。 

B子さんは、Aさんが死亡後、二男および長女に特別寄与料の支払を請求し、遺産分割協議の中で協議することになるのでしょうが、二男らが協議を拒んだり、協議が調わなかったときは、B子さんは、家庭裁判所に対して、協議に代わる処分を請求することができます(1050条2項)。 
ただし、相続開始および相続人を知った時から6カ月が経過、または相続開始時から起算して1年が経過した場合は、この請求はできなくなります。 
家庭裁判所は、寄与の具体的内容や相続財産の状態など一切の事情を考慮して、遺産の価額から遺贈の価額を控除した残額内で特別寄与料の金額を算出します(1050条3、4項)。 


このように、改正相続法によって相続人以外の親族の特別寄与が定められましたが、それでなくても複雑で厄介な相続・遺産分割に相続人以外の親族が介入し、新たな争点が持ち込まれたことで、解決がより困難になることも予測されます。
『“相続”は“争続”』と揶揄される所以です。 

B子さんのように、被相続人の療養看護に努める親族が、被相続人の遺産相続で正当に報われるためには、不本意かもしれませんが、その療養看護のために何にいくら費やしたかという記録は、日頃から用意しておくことが必要になってくるでしょう。