税理士法人笠松・植松&パートナーズ

建設業の経営者なら押さえておきたい『原価管理』

18.12.04
業種別【建設業】
dummy
建設業の悩みの一つが、会計処理がつい乱雑になりやすいことではないでしょうか。
原因として、長期間に及ぶ工事が多く、実態を把握しにくい建設業経理の特殊性などが考えられます。
工事の原価を少しでも抑え、売り上げを上げることは、会社経営を安定して続けていくうえで必須の課題。
そのためにも、原価管理は経営者として踏まえておきたいものです。
今回は、原価管理の重要さと、その基本的な仕組みについてご紹介します。
dummy
原価管理はなぜ大事?

工事を受注するときはまず見積もりを出し、そこで大まかな収支を把握することになります。
この収支のうち材料費や労務費などの支出面が原価であり、『原価管理』は、この割り出された原価を集計・分析し、経営に活かしていくことをいいます。
『原価管理』を行うことによって、どんなメリットがあるのでしょうか。
あらためて振り返ってみたいと思います。

・明解な予算管理ができる
建設会社は複数の工事を同時進行で請け負っていることが多いため、予算管理ができなければ資金繰りが滞るばかりか、ほかの工事にも影響します。工事ごとの適切な原価管理が、予算管理に影響してきます。

・その工事が赤字なのか、黒字なのかを見極められる
工事進行基準の場合は年度ごとの収益を管理しますが、工事原価を割り出すことによってその工事が黒字なのか赤字なのかを早めに判断できるため、軌道修正がしやすくなります。

・取引先などの関係者に、工事に関するより正確な情報を提供できる
工事の受注時点で、まずはその工事にかかる費用や収益について見積もりますが、実際に工事が始まると、予定通りには進まないものです。原価管理が適切にできていれば、見積もり額と現状の額がどれくらいかけ離れてきているのかなどを、正確に取引先に示すことができます。

・工事高を算出する基礎となる
工事完成基準でも、工事進行基準でも、工事が完了した後に実際の収支を確定します。その工事で生まれた収益を『工事高』と呼びますが、この工事高を算出するためには正確に原価を計算できていなければなりません。


建設業の原価は大きく分けて4種類

『原価=費用』と大雑把にとらえていては、原価を割り出すときに混乱してしまいます。
まずは原価を分類し、それぞれにどれくらいの金額がかかるのかを調べることで、原価管理がしやすくなります。建設業では、原価を以下の4つに分類しています。

・材料費
その工事に必要とされる材料にかかる費用です。鉄筋、木材、コンクリートなどの主体材料と、釘などの付随部品がこれに該当します。

・労務費
その工事にかかわる作業員の人件費のことで、賃金や福利厚生費などが含まれます。労務費に含まれるのは、会社で雇用している人の人件費となり、ここには下請け業者などの人件費は含まれません。

・外注費
建設業では、専門作業の多い建設工事を自社のみで請け負うことは少なく、通常は下請け会社と一緒に工事に臨みます。この下請け会社に支払う人件費や、個人で仕事を請け負ういわゆる一人親方に支払う人件費が外注費に当たります。ただし、一人親方や下請け会社であっても、自社が指揮監督指定している場合は労務費に含めることがあります。

・諸経費
材料費、労務費、外注費に当てはまらない費用全般で、現場管理費や交通費、通信費のほか、広告宣伝費などの費用が含まれます。

これらのうち、大きく割合を占めるのが外注費と材料費です。


注意したい『間接原価』

工事原価の主な4分類をご説明しましたが、ここで注意しておきたいのが、その工事とは直接関係ない費用も工事原価に含まれる場合があることです。

工事原価には、『直接原価』と『間接原価』があります。
直接原価は工事のために必要な資材、その工事のために雇った人の人件費など、その工事で直接発生した費用です。
一方で、複数の工事で使用する事務所の家賃や光熱費など、一つの工事の経費としては特定できない費用があります。
こういった横断的に発生する費用は、一定の基準に従って配分処理する『配賦(はいふ)』という方法を使って計算し、工事ごとに間接原価として割り振ります。
原価を出すときにこの間接原価を忘れてしまうと、実際の費用と乖離してしまいかねません。
さらには、税務調査が入ったときにも問題視される可能性があります。
間接原価を含めた金額を把握することは、非常に重要といえます。

工事の受注時から完成後まで、すべての過程で関わってくる原価管理。
その工事が赤字になっているのか、黒字になっているのかを常に把握し、適切な軌道修正ができれば、より確実な利益の達成が見込めます。
会社の安定した運営のためにも、ぜひ基本を押さえ、資金管理に役立てていきましょう。