税理士法人笠松・植松&パートナーズ

介護業界における『無期転換ルール』の現状とは?

18.12.04
業種別【介護業】
dummy
人材が枯渇している介護業界。
その打開策となり得るのが、通算5年で無期転換への申し込み権が発生する『無期転換ルール』です。

そこで今回は、介護業界の実態調査もふまえながら、『無期転換ルール』を進めるうえで参考となる現状を見ていきます。
dummy
有期契約労働者にメリットのある『無期転換ルール』とは?

働き方が多様化する現代社会において、労働条件に関する労使トラブルは年々増加しています。
労働条件に関する最低基準は『労働基準法』において定められていますが、『労働契約法』が制定されるまでは労働者との個別のトラブルを解決する法律は存在せず、民事上のルールに基づき裁判などで争われることが一般的でした。
このような『労働基準法』では規制できない個別の労働条件の締結や、改定に起因するトラブルを抑制するために制定されたのが『労働契約法』です。
『労働契約法』は平成20年に制定された新しい法律ですが、平成25年4月1日に有期契約労働者(期間の定めのある労働者)の契約に関する大きな改正が行われました。
それが『有期契約労働者の無期転換ルール』です。
これは有期労働契約が反復更新されて5年を超えた場合、有期契約労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールのことです。
通算5年のカウントは、平成25年4月1日以後に締結した有期労働契約から開始しますので、早い方は平成30年4月1日に無期転換の申し込み権が発生しています。


半数以上の介護従事者が『労働契約法』を知らない現状

では、介護業界において『無期転換ルール』がどのように進んでいるのか見てみましょう。
平成30年9月10日に公表された『2018年度就業意識実態調査』(UAゼンセン日本介護クラフトユニオン)では、『改正労働契約法』を「あまり知らない」もしくは「まったく知らない」と答えた組合員が月給制の介護従事者で58.3%、時給制の介護従事者で65.5%という結果になっており、半数以上の介護従事者が改正労働契約法無期転換ルールについて知らないことがわかりました。
また、有期労働契約の介護従事者に対する「あなたは無期労働契約へ転換したいですか」という質問に対しては、「はい」と回答した人が33.6%、「いいえ」と回答した人が51.0%、「すでに転換した」と答えた介護従事者は2.5%という結果でした。
「無期転換したくない」と答えた介護従事者の理由の上位回答が「辞めたいときに辞められなくなりそうだから」(38.2%)、「今のままで満足しているから」(28.3%)、「労働条件を変えられるかもしれないから」(21.8%)となっており、その他にも「責任が重くなりそうだから」(14.3%)などネガティブな意見が目立っています。


『無期転換ルール』を人材確保に活かそう

有期契約労働者の場合、契約期間満了で次回更新が行われなければ契約満了時で退職となるため、『無期転換ルール』は有期契約労働者にとってはメリットのある法律です。
一方、事業主にとっては、人員を削減したくても無期転換された労働者をむやみに削減することは解雇権の濫用となる可能性が高くなり、また解雇となると雇用関係の助成金も一定期間受給できなくなるため、これからの人材計画に関わる大きな意味を持つ法律と言えます。
しかし、有期契約労働者が無期転換を申し込んだからと言って必ずしも正職員になるわけではありません。
『無期転換ルール』では、申し込みがあれば期間の定めのない契約に変更する義務はありますが、給与などの待遇やその他の労働条件を変える必要まではないからです。
人材が枯渇している介護業界の中で、人材を確保するためにすでに1,000人を超える有期契約労働者に対して無期転換を行った大手の訪問介護事業者もあります。
新たな人材採用だけに目を向けるのではなく、現在雇用しているパートタイマーなどの有期契約労働者についてもどのように雇用していくべきかを早急に検討する時期に差し掛かっているのではないでしょうか。

有期契約労働者の方々に『無期転換ルールの正しい知識を周知するとともに、進んで残りたいと思わせる労働環境を構築していくことは必要不可欠です。
この機会に、有期契約労働者の働き方を見直し、事業所ごとの『働き方改革』を促進してみてはいかがでしょうか。