税理士法人笠松・植松&パートナーズ

飲食店で酒類を小売するための必要な手順

25.06.03
業種別【飲食業】
dummy

飲食店では営業中に、「お酒を持ち帰りたい」という要望をお客から受けることがあります。
店で提供しているものなので、そのまま持ち帰り用として販売しても、一見問題ないように思います。
しかし、飲食店内での酒類の小売は、原則として酒税法によって規制されています。
酒類の販売業免許を持たない飲食店は、自由に店内で販売することができません。
ただし、一定の条件を満たすことで、例外的に販売が認められるケースもあります。
店で酒類を小売したいという飲食店オーナーに向けて、必要な手続きや条件について解説します。

dummy

酒類を小売することのメリットと法的な規制

こだわりの地酒や珍しいワイン、クラフトビールなどを提供している飲食店では、お客から「今日飲んだこのお酒を持ち帰り用に買えますか?」と聞かれることも少なくありません。
こうしたニーズに応えることは、単にその場での販売機会を増やすだけでなく、お客との関係性をより深くするチャンスでもあります。
「美味しい料理と一緒に気に入ったお酒を買える」という認識が広まれば、店のファンが増え、リピート率の向上にもつながるでしょう。

しかし、飲食店内での酒類の小売は原則禁止されており、酒税法においては、酒類の販売は酒類販売業免許を持つ事業者のみが行うことができると定められています。
これは、酒類の品質管理や税収の確保などを目的とした規制であり、無闇な酒類の販売を防ぐためのルールともいえます。
したがって、通常の飲食店が料理を提供する傍ら、未開封のお酒を販売することは、原則としてこの法律に抵触する行為となります。
居酒屋が瓶ビール栓を抜いて提供したり、ウイスキーや焼酎のボトルを持ち帰らせずにキープさせたりするのは、この規制に抵触しないようにするためです。
もし、無許可で酒類の小売を行なった場合、酒税法違反として罰則が科せられる可能性もあります。

このように、飲食店内での酒類の小売は、法律によって厳しく制限されているということを、まずはしっかりと認識しておく必要があります。
お客からの要望があったとしても、安易に対応することは避けるべきです。

しかし、飲食店で酒類を小売する方法がないわけではありません。
実際に、飲食店として営業しながら、酒類の小売で集客を図っている店も数多く存在します。

販売スペースや仕入先を分けることが重要

飲食店で酒類を小売するのであれば、まず通常の飲食営業許可とは別に、酒類販売業免許を取得する必要があります。
ただし、免許を取得するには、一定の条件を満たさなければいけません。
飲食店が酒類販売業免許を取得する際に、ネックになるのがスペースの問題です。

飲食店で酒類を小売する場合には、店のお客が飲食するスペースとは区切られた販売スペースが必要になります。
このスペースが確保できていないと、免許が取得できない可能性があります。

販売スペースは、店の一角に設置したような棚などではなく、完全に区切られたスペースではなくてはいけません。
新規開店で、ある程度、店内のレイアウトが自由に変更できる場合は、最初から酒類の販売スペースを確保しておくという方法があります。
一方、既存店の場合には、改装工事が必要になるケースがほとんどなので、費用なども踏まえて、慎重に判断しましょう。

また、飲食店で酒類を小売する場合は、酒類の仕入れ先もそれぞれ分けなければいけません。
酒税法では、酒販店から酒販店への酒類の販売を禁止しているのが理由です。
飲食店は酒税法のうえではあくまで消費者で、店内で飲む分の酒を酒販店から仕入れる分にはまったく問題ありません。
しかし、酒類販売業免許を取得して店内で酒類を小売できるようにしてしまうと、区分が消費者から酒販店になってしまうため、酒販店から仕入れができなくなってしまうというわけです。

つまり、飲食店として提供する酒は従来通り酒販店から仕入れ、小売用の酒は卸業者やメーカーから仕入れるなどの対策が必要です。
販売する場所や保管する場所、仕入先や帳簿まで、すべてを分けなければいけないため、「飲食店で提供する酒がなくなったから、小売の分の在庫を回す」といったこともできません。

飲食店での酒類の販売は、各種条件を満たしたうえで、あくまで例外的に認められているものです。
特徴的なお酒を提供している飲食店などではメリットもありますが、そうでなければ手間やコストなどのデメリットのほうが大きいかもしれません。
実際の具体例などを調べつつ、よく考えたうえで、判断するようにしましょう。


※本記事の記載内容は、2025年6月現在の法令・情報等に基づいています。