消費エネルギー量を実質ゼロにする住宅『ZEH』に注目が集まる
近年、地球温暖化対策やエネルギー価格の高騰を背景に、住宅の省エネルギー化への関心が高まっています。
そのなかでも、消費エネルギー量を実質的にゼロにする住宅、通称「ZEH(ゼッチ)」が、持続可能な社会の実現に向けた重要な選択肢として注目を集めています。
ZEHは、「net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略で、高断熱性能や省エネ設備および創エネ設備などを組み合わせることで、年間の一次エネルギー消費量の収支をプラスマイナスゼロに近づける住宅のことです。
今回は、ZEHの基本的な概念やメリットなどを解説します。
ZEHのカギは省エネ・断熱・創エネ
2000年代後半からアメリカを中心に注目を集めたZEHですが、日本でも2014年に閣議決定をした「エネルギー基本計画」を受け、経済産業省は「ZEHロードマップ検討委員会」を立ち上げました。
そして、2021年には「2030年度以降新築される住宅について、ZEH基準の水準の省エネルギー性能の確保を目指す」、「2030年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指す」という政府目標が示されました。
すでに目標に向けた業界の動きは活性化しつつあり、ハウスメーカーが2020年に新築した注文戸建住宅の約56%はZEH住宅となっています。
ZEHは、住宅の年間一次エネルギー消費量の収支を実質的にゼロにすることを目指した住宅ですが、この「一次エネルギー」とは、石油や石炭、天然ガスといった自然界に存在し、家庭で使用する電気やガスなどに変換される前の段階のエネルギーを指します。
そして、ZEHを実現するためには、大きく分けて「省エネ」「断熱」「創エネ」という3つの要素が重要となります。
まず、「省エネ」とは、住宅内で使用するエネルギー量を極力減らすための取り組みです。
これには、高効率なエアコンや給湯器、LED照明などの省エネ設備の導入が含まれます。
これらの設備は、従来の機器に比べて少ないエネルギーで同等の性能を発揮するため、日々のエネルギー消費量を着実に削減することができます。
次に「断熱」は、住宅の断熱性能を高めることで、外部の温度変化の影響を受けにくくし、室内の温度を一定に保つための対策です。
具体的には、高性能な断熱材を壁や屋根に使用したり、断熱性の高い窓やドアを採用したりすることがあげられます。
住宅の断熱性能がアップすることで、冷暖房効率が大幅に高まり、無駄なエネルギー消費を抑えることができます。
そして「創エネ」とは、住宅自身でエネルギーを創り出すことです。
最も一般的なのは、太陽光発電システムの設置です。
太陽光エネルギーを電気に変換し、家庭で使用することで、購入するエネルギー量を減らすことができ、余った電力は電力会社に売電することも可能です。
これらの「省エネ」「断熱」「創エネ」の技術を組み合わせることで、ZEHは年間の一次エネルギー消費量を実質的にゼロに近づけることを可能にします。
これは、単に光熱費を削減するだけでなく、地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出量を大幅に減らすことにもつながる環境に優しい住宅といえるでしょう。
事業者として顧客にアピールできること
ZEH住宅を請け負う事業者は、ハウスメーカー、工務店、設計事務所などです。
こうした事業者にとって、ZEHは顧客にアピールするための新たなビジネスチャンスでもあります。
ZEH住宅は、居住者にとって経済的、環境的、そして快適性の面でさまざまな利点をもたらします。
たとえば、経済的なメリットとして最も大きいのは、光熱費の大幅な削減です。
高断熱性能によって冷暖房費が抑えられ、省エネ設備の導入によって消費エネルギー量が減り、さらに太陽光発電システムによる売電収入も期待できるでしょう。
これらの効果が積み重なることで、年間の光熱費を大幅に削減し、場合によっては実質ゼロにすることも可能です。
快適性の面では、高断熱性能による室内の温度差の軽減が大きな利点となります。
夏は涼しく、冬は暖かい、1年を通して快適な室内環境を実現できますし、高気密・高断熱の住宅は外部からの騒音を遮断する効果も高く、静かで落ち着いた住環境を提供します。
ほかにも、環境保全に貢献できるという点や、将来的な需要増加による資産価値の向上が期待できる点など、ZEH住宅はさまざまなアピールポイントがあります。
さらに、ZEH住宅の建設費用の一部を国や自治体が補助する補助金制度なども用意されており、ZEHの導入を検討する顧客にとっては大きなインセンティブとなっています。
一方で、ZEH住宅の建築にかかる費用は、従来の住宅と比較して一般的に高くなる傾向があります。
これは、高性能な断熱材や省エネ設備、太陽光発電システムなどの導入に追加の費用が必要となるためですが、その初期投資に見合うだけの長期的なメリットがあることも事業者として理解しておきましょう。
建設事業者においては、ZEH住宅の建築にかかる費用だけでなく、長期的な経済効果や快適性、環境性能などのメリットを顧客に丁寧に説明することが重要です。
また、補助金制度などに関する情報もあわせて提供することで、顧客のZEH住宅への導入意欲を高めることができるでしょう。
※本記事の記載内容は、2025年6月現在の法令・情報等に基づいています。