税理士法人笠松・植松&パートナーズ

「か強診」から変更された『口腔管理体制強化加算(口管強)』とは

25.06.03
業種別【歯科医業】
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2024年度の診療報酬改定において、これまでの「かかりつけ歯科医機能強化型歯科診療所(か強診)」が、新たに創設された「口腔管理体制強化加算(口管強)」へと名称変更されました。
この変更は、地域包括ケアシステムにおける歯科医療の役割を明確化し、患者の口腔の健康を生涯にわたってサポートしていく新たな指針を示すものといえます。
今回は、「か強診」から「口管強」へと変更された背景や、その中心となる「かかりつけ歯科医」の役割、そして、歯科クリニックが「口管強」を取得することのメリットとデメリットなどを解説します。

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かかりつけ歯科医の役割と背景にあるもの

今回の改正では、「かかりつけ歯科医」の機能がより明確化され、地域住民の口腔内の健康を守るための歯科医療提供体制の強化がポイントとなりました。
そもそも「かかりつけ歯科医」とは、患者が継続的に安心して歯科医療を受けられるように、その人の口腔内の状態だけでなく、全身の健康状態や生活背景なども含めて理解し、長期的な視点に立った口腔管理を主導する歯科医師のことを指します。
必要に応じて、医科の医療機関や介護・福祉サービスとの連携を図り、患者の状態を考慮したうえで、適切な医療を提供するのもかかりつけ歯科医の役割です。

「口管強」は、こうした「かかりつけ歯科医」の機能を評価し、その活動を推進することで、地域住民の口腔健康の維持・向上に貢献することを目的としています。
「か強診」よりも一層、患者一人ひとりの状態に応じた継続的な口腔管理と、全身の健康状態との連携を重視する方向へと評価体系が強化されたといえるでしょう。

その背景には、急速な高齢化の進行や、口腔と全身疾患の関連性などがありました。
高齢者の多くは、複数の慢性疾患を抱え、全身の状態と口腔の状態が密接に関連していることが少なくありません。
そのため、単に虫歯や歯周病を治療するだけでなく、全身の健康状態を考慮したうえでの口腔管理がより一層重要になっています。

また、近年の研究では、口腔と全身疾患の関連性が科学的に明らかになってきました。
歯周病が糖尿病や心疾患、脳血管疾患などのリスクを高める可能性が指摘されているように、歯科医療は単に口の中の病気を治すだけでなく、全身の健康維持・増進に貢献する役割がより強く認識されるようになってきています。

これらの社会的・科学的な背景を踏まえ、2024年度の診療報酬改定では、「か強診」の理念を継承しつつ、患者に対して、継続的かつ包括的な口腔管理を評価する「口管強」が新設されたということです。

「口管強」を取得するメリットとデメリット

「口管強」を歯科クリニックが取得することは、経営面と診療面の両方において、メリットとデメリットがあります。
クリニックを運営していくうえでは、しっかりと把握しておきましょう。

メリットとしては、要件を満たすことで「口管強」として加算点数が算定できることがあげられます。
「口管強」とそれ以外の歯科クリニックでは保険点数に大きな差が出ますし、結果として、収益の増加につなげることができます。
また、「口管強」を取得することで、地域住民からの信頼性が高まり、新規患者の獲得や、既存患者の継続的な受診につながる可能性があります。
地域貢献やスタッフのモチベーション向上なども期待できるでしょう。

一方で、「口管強」を算定するためには、人員配置、診療実績などの施設基準を満たす必要があります。
これらの要件を満たすためには、時間やコストがかかる場合がありますし、算定要件を維持するために、歯科医師やスタッフが常に知識や技術をアップデートしていく必要があります。

特に注意が必要なのは、保険点数の増加に伴い、患者の自己負担額が増加してしまうことが最大のデメリットです。
患者からクレームを受けないためにも、「口管強」の趣旨や、提供する口腔管理の内容について、医院のサイト、院内掲示、または口頭などで丁寧に説明し、理解と同意を得ておきましょう。

算定には要件を満たしたうえで届出が必要

口管強を算定するためには、複数の要件が定められています。
これらの要件は、人員配置、診療実績、および地域連携体制など、多岐にわたります。
たとえば、施設基準では、「歯科医師が複数名配置されていること又は歯科医師及び歯科衛生士がそれぞれ1名以上配置されていること」や「過去1年間の診療情報提供料又は診療情報等連携共有料があわせて5回以上算定している実績があること」などが定められています。
詳しくは、厚生労働省のホームページなどで確認しておきましょう。

また、地方厚生局への届出も必要になります。
今回の診療報酬改定に伴い、「か強診」の施設基準を満たしていた歯科クリニックにおいても、新たに「口管強」の施設基準に適合しているかを確認し、必要に応じて再届出を行わなければいけません。
「か強診」の届出をしていたクリニックは、経過措置として2025年5月末までは「口管強」の算定が可能でしたが、それ以降に継続して「口管強」を算定するには、届出書や必要書類を用意して届け出る必要があります。

「口管強」の取得は売上の拡大や地域における信頼性の向上、質の高い歯科医療の提供につながります。
改正の趣旨を理解したうえで、「口管強」の取得を検討してみてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2025年6月現在の法令・情報等に基づいています。