みよた社会保険労務士法人

制震や免震との違いは? 大地震に備えて改めて確認したい耐震基準

23.05.01
業種別【建設業】
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2023年2月6日にトルコ南部のシリア国境付近でマグニチュード7.8の大きな地震が発生し、多くの建物が倒壊しました。
トルコでは建物の耐震基準が設けられていますが、その徹底が不十分だったことが今回のような大きな被害につながったのではないかとの指摘もあります。
地震大国の日本にもトルコ同様に建物の耐震基準があり、原則としてすべての建物がこの耐震基準に準じて建てられています。
この先起きるかもしれない大地震に備えて、改めて日本の耐震基準について、理解を深めておきましょう。
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改正が繰り返されてきた日本の耐震基準

気象庁が発表する『南海トラフ地震関連解説情報』によると、東日本から西日本の太平洋側を中心とした南海トラフ沿い地震について、マグニチュード8~9クラスの地震が今後30年以内に発生する確率は70~80%とされています(4月7日時点)。
また、『国土交通白書2020』では首都直下地震も、マグニチュード7クラスの地震が今後30年以内に発生する確率は70%ほどと予測されています。

日本ではこれまでも、1995年の阪神・淡路大震災(マグニチュード7.3)、2004年の新潟県中越地震(マグニチュード6.8)、2011年の東日本大震災(マグニチュード9.0)、2016年の熊本地震(マグニチュード6.5)など、数々の大地震が発生してきました。
そして、その度に建物の『耐震基準』が見直されてきました。

耐震基準とは一定の強さの地震が起きても倒壊や損壊しない建築物を建てるための基準のことで、建築基準法によって定められています。
1950年から適用されていた旧耐震基準は「震度5強程度の地震でも建物が倒壊せず、仮に建物が倒壊した場合でも補修することで生活可能となる構造基準」であったため、大地震には対応していませんでした。
そのため、1978年に発生した宮城県沖地震(マグニチュード7.4)では約7,500戸の住宅が全半壊したことから、1981年には建築基準法の改正が行われ、『新耐震基準』が制定されました。

新耐震基準では旧耐震基準が強化され、「震度5強程度の地震でほとんど損傷しないことに加えて、震度6強から震度7程度に達する地震で人命に危害を及ぼすような倒壊等の被害を生じないことを目安にする」という基準が加えられました。
1995年に発生した阪神・淡路大震災の死因の約9割は住宅などの倒壊による圧死といわれています。
翌年に行った調査で、被災した木造家屋のほとんどが旧耐震基準で建てられていたことが明らかになりました。
このことから、2000年には建築基準法と住宅の品質確保の促進等に関する法律が改正され、木造の建物の耐震基準を強化した『2000年基準』と呼ばれる新しい基準が設けられました。

2000年基準は、2000年6月1日以降に建築確認申請が行われた木造の建物に適用される基準で、地盤調査の規定の充実や、地盤に応じた最適な基礎の設計や、柱・梁・筋交いなどの接合部に固定する金物などの指定を定めています。
2000年基準はあくまで木造建築物に適用されるため、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建造物に適用される基準は、1981年に定められた新耐震基準となります。


耐震と制震と免震の違いを理解しておこう!

国土交通省の推計によれば、2018年時点で住宅の耐震化率は総戸数約5,360万戸のうち、約4,660万戸と、約87%に達しています。
一方で、まだ耐震性が不十分な住宅は約700万戸もあり、国は『国土強靱化年次計画2022』において、2030年までに耐震性が不十分な住宅をおおむね解消するための耐震化を促進するという目標を掲げています。

では、そもそも耐震化とは何を意味するのでしょうか。

耐震のほかにも、制震や免震という言葉があります。
実は、耐震と制震と免震では、それぞれ構造や工法が異なり、地震が起きた際の建物の揺れ方にその違いを見ることができます。

耐震とは、建物自体を強くすることで地震の揺れに耐えようとする構造のことです。
建物が倒壊・損傷しないために、強度の高い建材を使用したり、接合部を金具で補強したりするなどして、建物を強くします。
これから建てられる新しい建物や、新耐震基準の制定後に建てられたすべての建築物は、耐震構造・工法が採用されているといえるでしょう。
ただし、あくまでも建物自体を強化することで地震の揺れによる倒壊を防ぐための構造や工法であるため、地震による揺れを抑えることはできません。

一方で、制震とは、地震の揺れを吸収して揺れを抑えることです。
建物の内部にダンパーや重りなどで構成された制震装置を組み込むことで、地震の揺れを吸収します。
地震の際、従来は上階ほど揺れが大きくなる傾向がありますが、制震構造を採用すると、2階以上の揺れを大幅に低減できます。
そのため、主に高層ビルや高層マンションなどに採用されています。

また、免震は、建物と基礎の間にダンパーやアイソレータなどの免震装置を設置し、地盤と建物を切り離すことで、地震の揺れが直接建物に伝わることを防ぎます。
つまり、地震の力を受け流すことにより、建物の揺れを少なくします。

地震の多い日本において、建物の耐震構造の重要性は改めて指摘するまでもありません。
一般的に耐震構造よりも制震や免震構造のほうが導入コストが高くなるため、制震・免震性をどこまで高めるかは、施主の要望や予算、各種条件などによって異なってきます。
どの耐震構造を導入するかによって必要となる部材も異なります。
それぞれの違いをよく理解しておくことが大切です。


※本記事の記載内容は、2023年5月現在の法令・情報等に基づいています。