みよた社会保険労務士法人

未払賃金請求の時効が延びた? 『改正労働基準法』のポイント

20.06.09
ビジネス【労働法】
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2020年3月、『労働基準法の一部を改正する法律』(以下、改正労働基準法)が成立し、4月1日より施行されました。
これにより労働者が未払賃金を過去に遡って企業に請求できる期間が、現行の2年から原則5年に延長されました。 
この改正は、同じ4月1日施行の改正民法の中で、債務の時効が原則5年に延長されたことに合わせたものです。 
今回は、改正労働基準法のポイントについて解説していきます。
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残業代の未払問題、改善が急務!

2019年8月に厚生労働省が発表した『監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成30年度)』によると、100万円以上の割増賃金の未払について是正指導を受けた企業は1,768社、指導を受けて支払われた割増賃金の合計は124億4,883万円でした。
また、是正指導を受けた企業のうち、1,000万円以上の割増賃金を支払った企業は、228社にも及びました。
企業数、金額ともに前年比で減少しているものの、残業代の未払は依然として大きな問題となっています。

労働基準監督署にも、賃金不払に関する相談が労働者から日々寄せられています。
『残業をしているにもかかわらず、定時になると管理者が労働者全員のタイムカードを打刻してしまう』『自己申告による労働時間の記録と、パソコンのログ記録や金庫の開閉記録が食い違っている』などの事例を受け、厚生労働省は未払賃金のある企業に是正勧告を行っています。
割増賃金の未払問題は今後もさらなる改善が求められています。


賃金請求権の時効が5年に延長

民法の債務時効が5年に延長されたことに伴い、4月より施行された『改正労働基準法』では、賃金請求権の時効が延長されています。
これまでは未払賃金の請求は2年までしか遡れませんでしたが、原則5年まで遡れるようになりました。
ただし、企業への配慮もあり、当分の間は『3年』とする経過措置がとられています。
賃金請求権の延長は2020年4月1日以降の賃金に適用され、この日以降に支払期限が到来するすべての賃金請求権が延長されます。
つまり、実質的には2023年4月より過去3年分を請求できるようになります。
また、未払賃金だけではなく、裁判所が命じた制裁金でもある付加金に関しても、2年から原則5年(当分は3年)に延長されました。

このほか、以下のものも賃金請求権の時効延長の対象となっています。
●通常の給与などの賃金
●休業手当
●出来高制の保障給
●年次有給休暇中の賃金
●未成年者の賃金
など

企業側が従業員に時間外・休日労働を課した場合、割増賃金を支払わなくてはならないことは、労働基準法に定められています。
しかし、割増賃金の支払は長らく問題視されていますが、未だに実行していない中小企業は少なくありません。
今回の法改正は、自社に割増賃金の未払がないかどうかを確認するよい機会かもしれません。
故意であれ過失であれ、従業員への賃金未払が発覚した場合は、すぐさま支払うのが得策です。


賃金台帳などの保管期間も5年に延長

改正労働基準法では、同様に賃金を管理するための『賃金台帳』などの記録の保存期間も、原則5年(当分は3年)に延長されました。
賃金台帳とは、従業員の労働日数や労働時間数、時間外や深夜・休日の労働時間数、基本給や手当、賃金計算期間などを記したもの。
事業主にはこれを作成・保管する義務があることが労働基準法で定められており、違反すると罰せられます。

また、ほかにも以下のものが保存期間延長の対象となっています。
●労働者名簿
●賃金に関する書類(賃金決定関係書類や昇給減給関係書類など)
●雇入れに関する書類(契約書や履歴書など)
●解雇に関する書類(解雇決定関係書類など)
●災害補償に関する書類(診断書など)
●その他の労働関係の重要な書類(出勤簿やタイムカード、労使協定の協定書、各種許認可書など)

管理が大変だからといって破棄してはいけませんし、紛失してもいけません。
経営者や担当者がしっかりと管理し、労働基準監督署が調査に入った際にはスムーズに提出できるようにしておきましょう。
もし仮に悪質な従業員がいて、事実と異なる出勤簿を作成していた場合に、会社側が出勤簿を作成していなければ、従業員が作成したものが正しいと認められてしまうこともあります。

賃金の未払は、通常、起きてはいけないことで、万が一裁判に発展すれば、経営者も従業員も疲弊しますし、企業のイメージダウンも避けられません。
賃金請求権の時効延長に頭を抱える経営者もいるかもしれませんが、これを機に未払をなくすように努めていきましょう。
賃金台帳などの重要書類を管理し、時間外労働に対する割増賃金をしっかりと支払う健全な経営を心がけたいものです。

今は、昔のような労務管理は通じません。
この機会に見直しましょう。


※本記事の記載内容は、2020年6月現在の法令・情報等に基づいています。