税理士法人エム・アンド・アイ

海外で進む『かかりつけ医』制度、地域医療の担い手となるか

22.09.06
業種別【医業】
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病気や健康に関することを相談できる地域の医師である『かかりつけ医』。
日本では、どの地域のどの病院でも患者が自由に受診できる『フリーアクセス制』を採用していますが、たとえばドイツでは、高度な医療機関は『ハウスアルツト(家庭医)』とよばれる、かかりつけ医が紹介するシステムになっています。
昨今では、日本でもかかりつけ医の制度化が検討されています。
しかし人材育成や診療報酬の問題で、反対意見も少なくありません。
今回は、かかりつけ医制度化のメリットとデメリットについて説明します。
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ドイツでは導入済みの家庭医制度

患者が足を運んだ医療機関で、信頼できる医師が見つかれば、患者自身がその医師をかかりつけ医に決めて、その後も付き合っていくことになります。
かかりつけ医は複数人いても、どの診療科の医師でもかかりつけ医と呼んで構いません。
たとえば、内科と耳鼻科と皮膚科にそれぞれかかりつけ医がいても、ルール違反ではありません。
これは、ひとりの家庭医と密接な関係をもつ海外のやり方とは異なるところでしょう。
かかりつけ医は、病気の治療だけではなく患者の体調や健康面での相談などにも応じ、病気の早期発見や予防、アドバイスなども行います
自分の専門ではない病状の場合は、必要に応じて適切な医療機関を紹介するのも、かかりつけ医の役目とされています。

わが国のかかりつけ医は、あくまで患者側と医師側の信頼関係によって成り立っており、法的に定義されたものではありません。
このような背景もあり、新型コロナウイルスの感染拡大初期には、地域のクリニックが大勢の患者に対応できず、結果的に総合病院に負担が集中したケースもありました
こうした課題を受け政府は、地域のクリニックが、相談先としての機能を十分に発揮できるよう、かかりつけ医の制度化を進める考えを示しました。

すでに諸外国では、かかりつけ医の制度化が始まった国もあります。
たとえばドイツでは、2004年に『家庭医制度』が導入されました。
市民はあらかじめ受診する家庭医(かかりつけ医)を決めておき、最初に病院にかかる際は、その家庭医を訪ねることになります
そこで、家庭医の診療科ではない専門の治療を受け必要があれば、家庭医から医療機関を紹介してもらい、専門医のいる医療機関を受診します

ドイツの家庭医はレントゲンや胃カメラなどの設備を備えているところが少ないため、これらの検査が必要であれば、放射線科医師や消化器専門医のいる総合病院や大学病院を紹介します。
この制度は義務ではないものの、利用しなかった市民は、診察代にかかる自己負担額が増えることになります。
ただし、医師側も資格がないと家庭医になることはできません。

このドイツの家庭医制度の導入は、もともと患者の不必要な受診を減らして、医療費を抑制することが目的でした。
患者が複数の医療機関を受診する『ドクターショッピング』を減らせると考えられていましたが、実際にはそれほど医療費を抑制する効果はなかったといわれています。
一方で、慢性疾患を抱える患者の治療のコントロールや、投薬や服用の適正化、患者の満足度・利便性の向上などには効果があったようです。


かかりつけ医の導入で満足度が上がる

ドイツのほかにも、フランスやイギリス、オランダやデンマークなど欧州を中心に、かかりつけ医の導入が進んでおり、日本もこれに追随する形で、かかりつけ医の制度化のための議論が始まりました。

かかりつけ医制度の導入に踏み切った諸外国を見てみると、メリットとデメリットがあることがわかります。
それぞれについて紹介しましょう。

大きなメリットは、少ない医療従事者や、限られた医療資源を有効に活用できることです。
初診をかかりつけ医が受け持ち、それ以降の治療は専門医や総合病院が担うという役割分担の構図は、医療の効率化という意味で重視すべきポイントです。
ドイツのように、効率化によって医療の質が向上するのであれば、患者にとってもメリットになるでしょう。

一方、デメリットは、かかりつけ医の制度を利用しないと、自己負担額が増える可能性があることです。
医師への診療報酬についても、これまでの出来高払いから包括払いに変わる可能性があるため、医療機関によっては収入の減少につながる可能性もあります。
また、かかりつけ医となった医師は、一次医療の担い手として広い知識を要求されることになります。
勉強すべき範囲も広がり、診療時間外での診察や設備の導入など、個人的な負担が増える可能性もあります。

懸念はあるものの、地域で継続的に患者を診たり、医療に関するわかりやすい情報の提供を行うといった役割を担う医師への需要は、超高齢社会に突入した日本で今後ますます高くなっていくでしょう。
議論は始まったばかりですが、その動向に注目していきましょう。


※本記事の記載内容は、2022年9月現在の法令・情報等に基づいています。