ミスを装いSNSで呼びかけ……『誤発注商法』でモノを売るリスク
マーケティング施策を行ううえで、SNSの拡散力は無視できません。
一度話題になれば、その投稿は多くの人の目に触れることになります。
そして、このSNSの拡散力を活用したのが「誤発注商法」です。
「このままでは廃棄になってしまう、助けてください」といった訴えは、人々の心を動かし、実際に大量廃棄や倒産の危機を救う美談として語られてきました。
しかし、この手法が意図的に仕組まれた販売戦略として悪用されるケースがあります。
誤発注を装うことで生まれる深刻なリスクと、ブランドを守るための誠実なビジネスのあり方について、考えていきます。
助けを求める叫びが消費者の良心を刺激?
SNS上で「発注ミスをしてしまいました」という投稿を目にすることは、今や珍しいことではありません。
もともとは、地方の小さなお菓子屋さんや飲食店が、注文の操作ミスによって桁を一つ間違えて発注してしまい、途方に暮れてSNSで「助け」を求めたのが始まりだといわれています。
投稿を見たユーザーの「放っておけない」という善意から情報を拡散し、瞬く間に商品が完売するという体験は、SNSが持つ「共感」と「拡散」のポテンシャルを象徴する出来事として広く知れ渡りました。
しかし、こうした事例がメディアで取り上げられ、大きな売上につながることがわかると、それを「手法」として取り入れる事業者が現れ始めました。
意図的に在庫を多く抱え、あたかもミスをしたかのように装って同情を引くやり方は、短期的には在庫処分や売上向上に寄与するかもしれません。
しかし、現在のSNSユーザーは、こうした「演出された悲劇」に対して極めて敏感です。
誤発注が偽りであることが明らかになるケースなどもあり、この商法はいつしか「誤発注商法」と呼ばれるようになりました。
本当のミスでも向けられる冷ややかな視線
「誤発注商法」が認識されるようになった現在、たとえ本当にミスをしてしまったとしても、SNSで公に助けを求めること自体が大きなリスクになりました。
実際に、2025年11月にも、高額なおせち料理を大量に誤発注したとSNSで訴えた事業者が大きな炎上騒動に発展しました。
なぜなら、ユーザー側からすれば、目の前の投稿が「真実の叫び」なのか、それとも「ご発注を装った販促」なのかを判断する術はないからです。
また、「そもそも今の発注システムで、発注ミスが起きるはずがない」という声もあります。
これもまた、事業者側が弁明したとしても、ユーザーはその真偽を確かめることはできません。
結果として、「疑わしきは罰する」という価値観によって、糾弾されることになります。
現代のデジタル社会において、消費者は企業の裏側にある不自然さを敏感に察知します。
一度「客の善意を金に変えようとしている」という疑念を持たれてしまえば、どれだけ釈明しても、失った信頼を取り戻すことは困難といえるでしょう。
誤発注の公表は「ブランドの弱体化」も招く
仮に、本当に取り返しのつかないミスが起きてしまったとしても、それを安易にSNSで発信することは避けるべきです。
なぜなら、企業や店にとって「誤発注をした」という事実は、管理能力を疑われる行為だからです。
SNSでの「助けて」という発信は、短期的な売上にはつながるかもしれませんが、中長期的には「この店は管理がずさんだ」「また同じようなことを繰り返すのではないか」というマイナスの印象を植え付けます。
システム的な観点からも、大規模な発注には通常、承認フローや上限設定が存在します。
そうした常識に照らし合わせたときに、「あり得ないミス」を主張することは、自社のガバナンス(企業統治)の欠如を露呈することになります。
ブランディングの観点から見れば、顧客に同情されて買ってもらうという状態は、商品そのものの価値やサービスの質で選ばれているわけではありません。
これはブランド価値をみずから下げる行為であり、「ファンづくり」とはほど遠いものです。
大切なのは、誤発注を未然に防ぐためのチェック体制を整えることです。
そして、もし万一、重大なミスが起きてしまった場合には、見ず知らずの不特定多数に同情を求めるのではなく、まずは取引先や日頃から支えてくれている常連客に対して、誠実に協力を仰ぐのが本来のビジネスの筋道といえるでしょう。
拡散力のあるSNSは、マーケティング的にも心強いツールの一つですが、その扱いは慎重にならないといけません。
「誤発注商法」のような、人の善意を利用する手法は、一時の利益と引き換えに、企業が長年築き上げてきた信用を落としかねません。
持続可能なビジネスとは、誠実なコミュニケーションを通じて、商品そのものの魅力を消費者に正しく伝えていくことだからです。
※本記事の記載内容は、2026年2月現在の法令・情報等に基づいています。