税理士法人エム・アンド・アイ

『マイナ保険証』の利用を促進するためにクリニックができること

25.12.02
業種別【医業】
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2024年12月2日をもって、現行の健康保険証の新規発行が停止され、マイナンバーカードを利用した「マイナ保険証」への移行が本格的に始まりました。
マイナ保険証は、2024年度の診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」の算定において、その利用率が重要な要素として組み込まれています。
しかし、マイナ保険証の普及は進んでいるものの、その利用率は依然として低水準です。
そこで今回は、クリニックが実践できるマイナ保険証の利用率を高めるための具体的な取り組みを紹介します。

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マイナ保険証の利用率が伸び悩んでいる?

診療報酬改定で注目された「医療DX推進体制整備加算」は、「マイナ保険証の利用実績」が施設基準の一つとされています。
ほかの要件もありますが、簡単にいえば、マイナ保険証を利用して受付を行なった患者の割合が高ければ、加算点数も高くなるということです。

一方で、マイナ保険証の利用は、単に加算が取れるというだけでなく、患者の薬剤情報や特定健診の情報を即座に確認できるため、より安全で質の高い医療の提供にもつながります。
また、受付での資格確認作業が自動化されることで、スタッフの業務負担軽減や、入力ミスによるレセプトの差し戻しの減少も期待できます。
経営的なメリットと医療の質向上の両面から、利用率アップに取り組む意義は非常に大きいといえるでしょう。

しかし、全体として、マイナ保険証の利用率は、まだまだ伸び悩んでいるのが実情です。
厚生労働省の調査によると、2025年7月時点で、マイナ保険証の利用割合は31.43%でした。
従来の健康保険証の新規発行が停止された2024年12月までは、利用率も順調に伸びていましたが、それ以降は鈍化しています。

「使い方がわからない」や「カードを持ち歩くのが不安」といった声もあるうえ、現行の保険証も経過措置として最大1年間は使用できるため、「急いで切り替える必要性を感じない」という人も少なくありません。

こうした患者の抱く漠然とした不安や抵抗感を和らげ、利用するメリットを具体的に感じてもらうためには、最も身近な医療機関であるクリニックからの積極的な働きかけが不可欠です。

利用するメリットをいかに患者側に伝えるか

患者が安心してマイナ保険証を利用できるよう、クリニック全体でサポートする体制をつくることが求められていますが、具体的には、どのような取り組みが考えられるでしょうか。

最もシンプルで効果的なのが、受付スタッフによる「声かけ」です。
会計時や次回の予約を受ける際に、「次回からマイナンバーカードを保険証として使えますので、ぜひお持ちください」と一言添えるだけでも、患者の意識は変わります。
その際、ただ「使ってください」とお願いするのではなく、「過去のお薬情報が正確にわかるので、より安全な診療ができます」「限度額適用認定証の手続きが不要になって便利です」など、患者にとっての具体的なメリットを簡潔に伝えることが重要です。
医師や看護師からも、診察の際に「お薬手帳の代わりにもなりますから」と専門的な視点から後押しするのも効果的でしょう。

また、院内の掲示物を見直すことも重要です。
待合室など、患者の目に留まりやすい場所に、マイナ保険証の利用を推奨するポスターを掲示しましょう。
クリニック独自で「当院はマイナ保険証の利用を推進しています」「使い方がわからない方は、お気軽にスタッフにお声がけください」といった、温かみのあるメッセージを加えると、患者の安心感につながります。
厚生労働省が提供する啓発資材を活用してもよいでしょう。

ポスターのデザインも、文字ばかりでなく、イラストなどを用いて「何が便利になるのか」が直感的にわかるよう工夫しましょう。
あわせて、詳しいメリットや利用方法を記載したA4サイズ程度のチラシを作成し、受付で手渡したり、待合室に設置したりするのも効果的です。

さらに、クリニックのホームページや診察券の裏、院内の「受診時のお願い」といった掲示物など、受診時の持ち物を案内する箇所すべてに、「健康保険証」という記載と並べて、「マイナンバーカード(マイナ保険証)」と明記します。

Web予約システムを導入している場合は、予約画面の注意事項や、予約完了時に自動送信されるメールにも、「マイナンバーカードをお持ちください」という一文を必ず加えるようにしましょう。
繰り返し目にすることで、マイナ保険証が「当たり前の持ち物」であるという認識が、徐々に浸透していきます。

最初はスタッフの負担が増えるように感じられるかもしれませんが、「声かけ」「掲示物の工夫」「予約システムへの明記」といった地道な活動の積み重ねが、患者の理解と行動につながります。
まずは、今日からできる簡単なことから始めてみてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2025年12月現在の法令・情報等に基づいています。