税理士法人エム・アンド・アイ

介護現場の「休み方改革」による持続可能な職場づくりとは?

25.12.02
業種別【介護業】
dummy

介護業界では、少子化による慢性的な人材不足や過酷な労働環境の改善が長年の課題となっています。
特に現場スタッフの心身の負担は大きく、十分な休息が取れない状況が長く続けば、ケアサービスの質は低下し、スタッフの離職につながる可能性も高くなります。
こうした背景から、近年、「休み方改革」が注目されており、事業所ごとに独自の休暇制度の導入や、制度の見直しという動きが広がっています。
「休み方改革」とは、労働者の健康維持やワークライフバランスの向上を目的に、休暇制度の充実と柔軟な働き方の導入を支援する取り組みです。

dummy

「休み方改革」が介護現場にもたらす効果

介護業界において「休み方改革」による休日制度の整備は、現場スタッフの健康維持だけではなく、組織全体の活性化や経営改善につながる可能性があります。

特に次の3点が重要なポイントとなります。

(1)介護スタッフのバーンアウト(燃え尽き症候群)防止
介護職は身体的・精神的負荷が高いため、過重労働や人間関係の問題が積み重なることで、心身の疲労が蓄積し、バーンアウト(燃え尽き症候群)に陥ることがあります。
休暇制度の整備は、スタッフにリフレッシュする機会を与えることができるため、モチベーション維持とバーンアウト防止に必要不可欠な取り組みとなります。

(2)介護サービスの品質の向上と安定化
スタッフの疲労蓄積は、介護サービスの品質を低下させ、事故やトラブルのリスクも高めてしまいます。
十分な休息を取ることで、集中力や対応力が向上し、利用者へのサービスの質も安定します。

(3)職場の定着率向上
働きやすい環境は、スタッフの満足度を高め、離職率の低下につながります。
特に若いスタッフや育児・介護中のスタッフにとって、柔軟な休暇制度は大きな魅力となります。

厚生労働省では、働き方改革とあわせて休み方改革について次のような取り組みを推奨しています。

(1)各種制度の整備と導入支援
・勤務間インターバル制度:終業から次の始業まで一定時間の休息を確保する制度
・年次有給休暇の計画的付与制度:計画的な年休取得を促すことで、取得率向上を図る
・時間単位の年次有給休暇:1時間単位で取得できる年休制度
・病気休暇などの特別休暇制度:体調不良時の休暇取得を促進
・キッズウィークの活用:地域ごとに学校の休みを分散化し、家族で休暇を取りやすくする取り組みを推奨

(2)育児・介護休業法の改正
・看護等休暇の対象年齢を「小学校就学前」から「小学3年生修了まで」に拡大
・「感染症による学級閉鎖」「入園・卒園式」などによる休暇目的を追加

(3)企業の取組事例の公開
・「働き方・休み方改革取組事例集」を公開することで、企業の取り組みを推進

(4)ポータルサイトの活用
・「働き方・休み方改善ポータルサイト」で、自己診断ツールや取り組み事例の検索、制度導入の資料などを提供し、自社にあった制度導入を促進。

介護事業所で広がる独自の取り組みと制度

上記の厚生労働省の制度活用に加えて、介護事業所ごとに自所の課題を解消するために独自の制度設計を進める事例も増えています。
・リフレッシュ休暇の導入
介護スタッフの心身のケアを目的に、年間5日以上の「リフレッシュ休暇」を導入し、取得を義務化。
取得率を部署ごとに公開し、管理職が率先して休暇を取ることで、休みやすい風土を醸成。
・短時間勤務制度、積立有給休暇制度の導入
女性スタッフの仕事と育児や介護の両立を支援するため、短時間勤務制度や積立有給制度を導入。
導入によって、離職率が導入前と比較して半分以下に減少した事務所も。
・希望休制度の導入
介護スタッフが月ごとに「希望休」を申請できる仕組みを整え、シフト調整の負担を軽減。

実際に新しい休暇制度を導入する際には、以下の点を意識することが重要となります。
・心理的ハードルの解消
「休むと迷惑がかかる」「申し出づらい」といったスタッフの不安を取り除くため、管理職が率先して制度の活用を推進する。
・制度のマニュアル化と周知
休暇制度の内容や取得方法をマニュアル化し、職員に周知する。
・業務の属人化を防ぐ体制づくり
業務を複数の担当で共有し、誰かが休んでも業務が滞らない体制を構築する。

介護の仕事は「人」によって支えられています。
介護スタッフが疲弊することなく健やかに働き続けられる環境を整備することが、利用者へのケアサービスの質の向上につながります。
AIやICTを活用した管理システムやツールの開発も年々進んでおり、そういったシステムを導入する介護事業所も増加すると思われます。
各事業所において課題を明確にし、スタッフが安心して長く働ける職場環境を整えるために、どのような制度を導入すべきかを検討しながら、休み方改革に取り組んでみてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2025年12月現在の法令・情報等に基づいています。