顧客サービスに活かす『ピークエンドの法則』とは
人は出来事をすべての瞬間で評価するのではなく、「最も印象に残った瞬間(ピーク)」と「終わり方(エンド)」の2点を中心に全体を判断する傾向があります。
この心理的な動きを「ピークエンドの法則」と呼びます。
たとえば、旅館での滞在中に一度だけ心のこもった対応を受けたり、最後に笑顔で見送られたりすると、その体験全体を「とてもよかった」と感じることがあります。
ビジネスにおけるピークエンドの法則の基本を押さえ、企業が顧客サービスに活かすための方法を考えていきます。
ビジネスシーンにおけるピークエンドの法則
人は、体験した総時間や全体の平均的なクオリティを正確に思い出すことはできません。
代わりに、最も感情が高ぶった瞬間(ピーク)と、最後の瞬間(エンド)の印象をもとに全体を評価しています。
この人の心理的な動きである「ピークエンドの法則」は、ノーベル経済学賞受賞者である行動心理学者のダニエル・カーネマンによって提唱された理論で、ビジネスにおいても多用されている法則の一つです。
たとえば、「エンド」に目を向けてみると、ホテル業界では「チェックアウトの瞬間」を重要視していることがわかります。
宿泊中に多少の不満があっても、チェックアウトの際にスタッフが笑顔でお礼を伝えたり、小さな手紙やお菓子を添えたりするだけで、全体の印象が格段によくなることがあります。
また、飲食店では料理の味がいくらよくても、会計時の対応が雑だと店の印象は台無しになります。
一方で、食後に温かい言葉をかけたり、出口で「またお待ちしています」と笑顔を添えたりすれば、顧客の心にはよい「エンド」が刻まれます。
企業のカスタマーサポートにおいても同様です。
トラブル対応の電話で迅速に解決したうえで、最後に「ご不便をおかけして申し訳ありません。今後の改善につなげます」と誠意ある言葉を添えると、ユーザーには「しっかりと対応してくれた」という好印象が残ります。
顧客の体験を「よい終わり」に導くことが、ブランド信頼の積み重ねにつながるのです。
もちろん、「エンド」と同じく、「ピーク」も重要です。
たとえば、テーマパークでは「感動するショー」や「特別な体験」が訪問全体のピークになります。
長い待ち時間や多少の混雑があったとしても、そのピークの体験が強烈であれば、テーマパーク全体の思い出は「楽しかった」と記憶されるはずです。
高い顧客満足度はリピート率や口コミに影響
ピークエンドの法則を意識する最大のメリットは、「限られたリソースで顧客満足度を高められる」ことにあります。
提供するサービスのすべての瞬間を完璧にするのは現実的ではありません。
顧客が強く印象に残す「ピーク」と「エンド」を意識的に設計すれば、体験全体の評価を向上させることができます。
さらに、ピークエンドの法則は「リピート率」や「口コミ」にも直結します。
人は感情的な体験をすると、他者に共有したくなるという心理的な動きが働きます。
強い感動や心地よい余韻を感じた顧客のなかには、それをSNSや友人に伝えることもあるでしょう。
つまり、顧客の『記憶に残る瞬間』を意図的に設計することが、自然な形でのプロモーションにつながるのです。
ただし、ビジネスシーンでピークエンドの法則を活用する際には、注意も必要です。
まず、「意図的な演出」が過剰になると、顧客はかえって不自然に感じてしまいます。
顧客が求めているのは『本物の感情』です。
形だけの笑顔やマニュアル対応では、印象をよくするどころか逆効果になることがあります。
また、「ピーク」ばかりをつくろうとすると、サービス全体のバランスが崩れることもあります。
ピークはあくまで印象を強めるためのアクセントであり、基礎的な品質や誠実さが前提になければいけません。
土台が整っていなければ、ピークもエンドも意味を持たないということです。
さらに、「エンド」の印象をよくするには、社員全員の意識が統一されていることが重要です。
現場スタッフ一人ひとりが「最後の一瞬」を大切にする文化を持たなければ、どれほど優れた戦略を立てても実現はむずかしいでしょう。
ピークエンドの法則は、単なる心理学の理論ではなく、顧客の心に残る体験を提供する実践的な指針です。
顧客は「すべてを覚えている」のではなく、「印象的な瞬間」と「終わり方」だけを記憶しています。
つまり、顧客満足を高めるカギは、長い時間や完璧なサービスではなく、わずかな『瞬間の設計』にあります。
「感動のピークをどうつくるか」「最後にどんな言葉を贈るか」という二つを丁寧に磨くだけで、顧客の記憶は大きく変わります。
ピークエンドの法則を効果的に活用することで、企業は顧客の心に長く残るブランドへと進化できるはずです。
※本記事の記載内容は、2025年11月現在の法令・情報等に基づいています。