上司と部下の関係を深める『傾聴力』の鍛え方
部下との信頼関係を築き、チームのパフォーマンスを最大化するためには、円滑なコミュニケーションが欠かせません。
そのカギを握るのが、相手を深く理解するためのスキルの一つ、「傾聴力」です。
傾聴とは、ただ話を聞くのではなく、相手の言葉の背景にある感情や価値観にまで心を配り、真摯に耳を傾ける姿勢を意味します。
傾聴力を身につければ、部下は安心して本音を話せるようになり、上司と部下の間に「本音で語り合える信頼関係」を築けます。
管理者であれば身につけておきたい、傾聴力の鍛え方を解説します。
3つのレベルを使い分けながら部下と接する
上司が自分の話を真剣に聴いてくれると感じたとき、部下は「自分は尊重されている」「この上司は信頼できる」と感じます。
この信頼関係こそが、コミュニケーションの土台となります。
信頼関係のあるコミュニケーションは、部下からの報告が正確になったり、問題が小さいうちに相談してくれたりと、業務上のメリットもたくさんあります。
また、部下は自分の考えを話す過程で頭のなかが整理され、みずから課題解決の糸口を見つけることもできるでしょう。
これは、部下の主体的な成長を促す「コーチング」の側面も持っています。
このように、部下の信頼を得るための「傾聴」は、単なるコミュニケーションスキルに留まらず、部下育成の重要な手段でもあるということです。
かつての上意下達の組織とは異なり、今は従業員一人ひとりの自律性や創造性を引き出すことが、企業の成長に直結する時代になりました。
部下が安心して自分の意見やアイデアを口にできる「心理的安全性」の高い職場環境は、まさに上司の傾聴から始まるといっても過言ではありません。
具体的に「傾聴力」を鍛えるためには、まず傾聴について知らなければいけません。
傾聴には、大きく分けて3つのレベルがあります。
レベル1の「受動的傾聴」は、相手の話を遮らず、頷きや相槌を打ちながら、まずは最後まで耳を傾ける基本的な段階です。
レベル2は「反映的傾聴」と呼ばれます。
相手が話した内容を「つまり、〇〇ということですね」と要約したり、繰り返したりして、自分が正しく理解しているかを確認し、相手に安心感を与えます。
そして、レベル3が、最も能動的な「積極的傾聴」です。
積極的傾聴は、相手の感情に寄り添いながら、「そのとき、どのように感じましたか?」などの質問を通じて、相手が自身の考えや気持ちを深く掘り下げる手助けをします。
上司と部下のコミュニケーションにおいては、この3つの傾聴を状況に応じて使い分けることが求められます。
言葉を挟みたくなるのをぐっとこらえて!
傾聴を実践するうえで大切なのは「相手を評価・判断しない」という心構えです。
管理職であれば、部下の話を聞きながら、無意識に「それは違う」「もっとこうすべきだ」と頭のなかで評価を下しがちです。
しかし、その姿勢は言葉にせずとも相手に伝わってしまいます。
まずは自分の意見やアドバイスしたい気持ちを一旦脇に置いて、相手をありのままに理解しようと努めることが出発点になります。
相手が話しやすい雰囲気をつくることも傾聴には重要です。
視線を合わせ、体を相手の方向へ向けながら、時折頷くといった非言語的なサインを出すことで、「あなたの話に関心があります」という強力なメッセージを伝えます。
また、沈黙を恐れないこともポイントの一つです。
部下が言葉に詰まった時、焦って助け舟を出したり、次の質問を投げかけたりするのではなく、じっと待ちましょう。
この「間」が、相手に自分の内面と向き合う時間を与え、より深い本音を引き出すきっかけになることも少なくありません。
言葉だけでなく、沈黙もコミュニケーションの一部としてとらえることが、傾聴の質を高めます。
傾聴力を高めるためのトレーニング
傾聴力は、意識的なトレーニングによって誰でも向上させることができます。
特別な研修は不要なので、日々の業務のなかで、実践できることから始めてみましょう。
はじめの一歩として、1on1ミーティングの冒頭10分間を「部下の話を聴くことだけに徹する時間」と決めてみてください。
この間、上司はアドバイスやみずからの意見を封印し、ひたすら質問と相槌に集中します。
「それで、どうなったの?」「もう少し詳しく教えてくれる?」といった、相手の話を促す質問を心がけましょう。
これを続けるだけで、部下の話す量が増え、ミーティングの質が変わっていくはずです。
また、会議の場でも傾聴力を鍛えることができます。
特に反対意見が出た際には、すぐに反論するのではなく、背景にある理由や価値観を、「なぜ、そう思うのか?」といった質問を通じて、深く探ってみましょう。
自分とは異なる意見の裏にあるロジックを理解しようとする姿勢は、チーム内の建設的な対話を促進し、よりよい意思決定につながります。
傾聴力は、単なるテクニックではなく、部下一人ひとりを尊重し、その可能性を信じるという、リーダーの姿勢そのものです。
まずは部下の日々のささやかな会話を意識的に聴くことから始めてみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2025年11月現在の法令・情報等に基づいています。