経営危機の企業を救えるのか? 2026年施行の『早期事業再生法』とは
経営危機に陥った企業は、経営が続けられるうちに再建を目指す「私的整理」か、裁判所の管理下で抜本的な再生を図る「法的整理」のどちらかを選ぶことになります。
この私的整理の円滑化を目的とした「早期事業再生法」(正式名称:円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律)が、2025年6月6日に成立しました。
金融機関からの借入金について返済猶予や一部免除を受ける手続が、従来よりも利用しやすくなりました。
利用を検討している企業に向けて、「早期事業再生法」の中身を説明します。
金融債権の返済の猶予や減額を円滑に進める
「早期事業再生法」は、事業者が倒産という深刻な事態に至る前に、早期の段階で事業再生に取り組むことを支援するための法律です。
同法が対象とするのは、「経済的に窮境に陥るおそれのある事業者」です。
これは、すでに赤字が続いている企業だけでなく、現時点では黒字であっても、将来的に資金繰りの悪化が見込まれるなど、経営に黄信号が灯り始めた企業も含まれる点が大きな特徴です。
早期事業再生法の主な目的は、金融機関からの借入金、いわゆる「金融債権」に絞って、返済の猶予や減額といった権利の変更をより円滑に進めることにあります。
重要なのは、売掛金や仕入債務といった取引先の一般債権は手続の対象外である点です。
これにより、事業再生を進める過程で取引先に迷惑をかけるリスクを最小限に抑え、事業価値の毀損を防ぎながら再建を目指すことが可能になります。
早期事業再生法を利用するメリットはほかにもあります。
たとえば、民事再生などの手続に入ると、その事実が公になり、企業の信用力が大きく低下して取引の継続がむずかしくなるケースが少なくありません。
しかし、早期事業再生法では、基本的に非公開で手続を進めることができ、前述の通り取引先への支払いは継続されるため、事業運営への影響を最小限に食い止められます。
これにより、経営権を維持したまま、従業員の雇用やブランドイメージを守りながら、再建の道を歩むことが可能になります。
もう一つの大きなメリットは、金融機関との合意形成のハードルが下がることです。
これまでの私的整理では、原則としてすべての金融機関の同意がなければ、返済計画の変更は認められませんでした。
しかし、この新しい制度では、債権者集会における多数決の仕組みが導入されています。
具体的には、議決権を持つ金融機関のうち「4分の3以上」の賛成が得られれば、裁判所の認可を得ることで決議が成立し、効力が発生します。
経営危機の企業が債務整理に至るまでの手続
早期事業再生法に基づく手続の流れは、専門家である第三者機関の確認などを受けながら進める点が大きな特徴です。
まず、経営の立て直しを必要とする企業が、事業再生に関する専門知識を持つ国の認定した「指定確認調査機関」と呼ばれる第三者機関に手続を申請するところからスタートします。
申請が受理されると、企業は金融機関に対する返済の猶予や債務の減額などを盛り込んだ「権利変更議案」と、具体的な再建策を示す「早期事業再生計画」を作成し、提出することになります。
指定確認調査機関は、提出された計画が事業再生のために本当に必要か、そして実現可能性があるかなどを客観的な立場で調査・確認します。
その後、金融機関などの債権者を集めて「債権者集会」が開催され、作成した計画案について決議を求めます。
すべての金融機関から同意が得られれば、計画は成立し、実行に移されます。
一部に反対があっても、議決権の4分の3以上の賛成が得られれば、企業は裁判所に対して認可の申し立てを行うことができます。
裁判所が計画の妥当性を認め、認可決定を下せば、計画は法的な拘束力を持ち、すべての金融機関がその内容に従うことになります。
このように、専門家である第三者機関のチェックと、裁判所の関与という二段構えによって、早期事業再生法では手続の公正性と実効性を担保しています。
2026年の施行に備えて企業がしておくこと
早期事業再生法の施行は2026年中を予定していますが、利用を検討している事業者は今からできる準備を進めておく必要があります。
まず、自社の財務状況を正確に、そしてタイムリーに把握する体制を整えましょう。
月次の試算表や資金繰り表を常に確認し、売上の減少傾向や利益率の悪化といった、経営の変調を示すサインを早期に察知することが重要です。
この法律は「早期」の対応を促すものであるため、自社の健康状態を常に把握しておくことが基本となります。
さらに、メインバンクをはじめとする金融機関との平時からのコミュニケーションも重要です。
定期的に経営状況を報告し、課題や今後の見通しについて誠実に共有しておくことで、いざという時に相談しやすくなるだけでなく、再生計画への理解も得やすくなります。
ほかにも、弁護士や税理士、中小企業診断士など、事業再生の実務に詳しい専門家とのつながりを持っておくことは、有事の際に迅速な初動を可能にします。
早期事業再生法で重要な役割を担う指定確認調査機関の情報を、今のうちから収集しておくことも大切です。
新しく施行される早期事業再生法の存在を知識として備えておくことが、未来の不測の事態に対する最大のリスク管理となります。
2026年の施行を見据え、今のうちに自社の経営体制をあらためて見つめ直しておくことが重要です。
※本記事の記載内容は、2025年11月現在の法令・情報等に基づいています。