弁護士法人牛見総合法律事務所(山口県弁護士会所属)

じつは複雑! 国際的な結婚が破綻したときの解消手続き

22.02.08
ビジネス【法律豆知識】
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グローバル化の進展により、日本でも国際結婚をする人が増えてきました。
しかし、国際結婚とはどのようにして成り立つのか、また、離婚はどのように行うのかを具体的に知る人は、まだ少ないのではないでしょうか。
そこで今回は、日本国籍の人が国際結婚をした場合の離婚、婚姻無効、婚姻取消等(以下、まとめて婚姻関係解消)について、ひとつの事例をもとに解説します。
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国際的な結婚・離婚は2カ国で手続きを行う

たとえば、アメリカ国籍の男性と日本国籍の女性が国際結婚をすることになった場合、アメリカと日本、いずれの国でも、婚姻の届出等の手続をするのが一般的です。
つまり、アメリカでの結婚と、日本での結婚の2つの結婚があることになります。

では、何らかの理由があって、この婚姻関係を解消したい場合、どうすればよいのでしょうか。
その際は、結婚した双方の国の役所等において手続をすることが必要となります。
つまり、手続きの途中であればアメリカで離婚が成立したとしても、日本で離婚が成立していない状態があり得ることになります。
そのため、日本で共に暮らしていていた上記の夫婦の関係が悪化し、夫がアメリカに帰国して婚姻関係解消の手続を済ませてしまった場合、日本国籍の妻にとっては厄介な事態が生じます。
どういうことかというと、夫は、日本で婚姻関係を解消できなかったとしても、アメリカで婚姻関係解消ができているので、わざわざ費用と労力をかけて、日本で改めて婚姻を解消することにメリットがないということになってしまうのです。
特に、夫が今後、日本で暮らすことを考えていない場合、日本での婚姻関係解消をしていなくても生活に支障はないため、手続に協力してくれないということは十分に考えられます。

では、ここからは実際にあった日米間の夫婦の例をみていきましょう。
夫が妻に無断でアメリカの裁判所に婚姻取消訴訟を起こし、妻の不出頭によりこれが認められて、アメリカで婚姻取消判決が出たという事案がありました。
この日本国籍の妻は、突然、アメリカの裁判所から婚姻取消判決が送られてきて、初めて現状を知りました。

本来、そのようなときに取ることのできる手段で多く見られるのは、その外国裁判所による判決の執行判決を得ることにより、日本で外国裁判所の判決を承認させる方法(外国判決の承認手続)です。

しかし、日本国籍の妻の話では、当時、アメリカ国籍の夫の言うままに書類にサインをしただけで、書類が英文だったこともあり、詳しい内容を理解していないとのことでした。
そうなると、日本国籍の妻が婚姻取消訴訟のときに、適切に防御したといえない可能性があり、その他の承認要件を満たすかについても不確実なところがあります。

そこで、次に考えるのが、日本でも婚姻取消請求訴訟を提起し、判決を出してもらうという方法です。
しかし、アメリカ国籍の夫が取得した婚姻取消判決には、妻が夫を監禁・強迫等して婚姻したという取消理由が記載されており、これは日本国籍の妻の認識とは大きく異なります。
しかし、本人の認識と異なることを理由として訴訟を提起したとしても、裁判官にどう説明すればよいものかわかりません。
最終手段として公示送達があるとはいえ、夫のアメリカでの現住所が全くわからない状況であり、この点も難しいところでした。

そこで、最後は婚姻取消訴訟を提起するのはやむを得ないとして、現時点で日本人妻が保有する資料(判決のほか、アメリカの裁判所からの呼出状や、答弁書の書式等)を用いて、端的に日本の役所で婚姻取消の手続を進めることになりました。


最大の壁は国籍ごとに異なる法律や手続

その後、日本国籍の妻は、自身の住所地を管轄する役所にこの相談を持ち込みました。
そこで問題となったのは、アメリカの裁判所で下された婚姻取消判決が“確定”しているのかどうか、わからない、ということでした。

判決というのは、最高裁等の終審裁判所のものを除いて、書面で示されただけではまだ控訴等不服申立て手続による、変更の可能性があります
そのため、確定していないものを使って戸籍の処理をすることはできません。

日本の裁判所であれば、確定証明書を取得すれば足りるのですが、そもそもアメリカの判決がどのような場合に確定するのか不明なため、アメリカの某州の家族法を読み解くこととなりました。
これは、とても骨の折れる作業です。
しかしその結果、どうやらアメリカの裁判にも日本と同様に“確定判決”という概念(Final Judgement)があり、その日付を客観的に示す資料があれば、日本の役所で受け付けることができることが判明しました。

しかし、次に問題となったのは、日本人妻の保有する資料には、判決の確定を示すものが含まれておらず、どのようにして確定したことを示せばよいのかわからない、ということでした。
アメリカは、州によって法律も訴訟手続も異なります。
アメリカの当該州の総領事館に連絡したり、現地の法律事務所の弁護士に尋ねたりするなどの調査を経て、当該州では判決をデータベース化しており、そのデータベース上に、確定日が記載されていることが判明しました。

最終的には、データベースに確定日が記載されているという情報を役所に提出する方法により、判決の確定を客観的に示すことができ、婚姻取消という形で戸籍に反映させることができました。
これでようやく、日本国籍の妻は国際結婚の解消に成功したのです。

このように国際結婚を解消するというのは、国によって制度や法律が異なり、相手側の協力が得られなければ事態の収束まで困難を要する場合も多くみられます。
円滑に婚姻関係を解消するためにも、相手との関係性が完全に切れる前に、しっかりと話し合いをしておくことをお勧めします。


※本記事の記載内容は、2022年2月現在の法令・情報等に基づいています。