弁護士法人牛見総合法律事務所(山口県弁護士会所属)

相次ぐ著作権侵害、フリー素材の適切な取り扱いを考える

24.09.10
ビジネス【法律豆知識】
dummy

インターネット上のイラストや写真を無断使用し、トラブルになるケースが近年増加しています。
多くの場合、イラストや写真が掲載されているサイトの利用規約を確認していなかったことが原因ですが、なかには画像素材サイトから購入したイラストが、実は作者に無断で転載されていたものだったというケースもあり、利用者側にも一定の知識や自衛意識が求められています。
今回は、フリー素材を使用する場合の注意点や、誤って使用してしまった場合の対応について解説します。

dummy

有料素材を無料使用可能と勘違い

2023年11月、大分県中津市で、市内の学校のホームページなどに掲載したイラストに著作権の侵害があり、イラストの作者に使用料相当額を支払うことで示談が成立したという報道がありました。
「有料素材を無料で使えるフリー素材だと勘違いしていた」「後日、無断使用が発覚して使用料相当額を支払った」という事例は、ほかの自治体などでも報告されており、同様のトラブルは後を絶ちません。
こうした事態を防ぐためにも、利用者側でもあらためて『フリー素材』の利用方法や、利用の際の注意事項を理解することが重要です。

そもそもフリー素材とは、どういったものを指すのでしょうか?
実は、フリー素材という言葉に明確な定義はなく、フリー素材の「フリー」を「無料」「自由」と解釈する場合もあれば、「著作権フリー」「ロイヤリティフリー」といった意味合いで使用されている場合もあります。
そのため、利用者は、フリー素材という言葉がどのような意味で使われているのかを、使用したい素材が掲載されているサイトの利用規約などで確認することが必要です。
次に、著作権フリーという表現についてです。
フリー素材と謳われている場合、著作権フリーという意味で使われることも多いですが、厳密には著作者が全部の権利を放棄していないケースもあります。
というのも、著作権は「複製権」「公衆送信権」などの細分化された複数の権利が含まれており、この一部を放棄した場合でも、著作権フリーを謳う場合があるからです。
本来の意味での著作権フリーには、(1)著作者によって著作権が放棄されたもの、(2)著作権の保護期間が満了したもの、(3)裁判所などの判例や、国や公共団体が作成した資料など著作権の対象外であるもの、などが該当します。
このうち、著作者が全部の権利を放棄している場合や著作権の保護期間が満了している場合は、社会全体の共有物である『パブリックドメイン』に該当し、著作権者の許諾なく、誰でも自由に利用できると考えられます。

しかし、先に述べたとおり、著作権フリーといっても著作者が全部の権利を放棄していないケースがあるため、実態としては「利用にあたっては、一定の条件が課せられている」といった意味で使用されることが多いと認識しておいた方が安全です。
フリー素材と同様に、著作権フリーと謳われている場合も利用規約の確認をおすすめします。

また、著作権フリーと似た言葉に『ロイヤリティフリー』があります。
これは「一度、使用料(ロイヤリティ)を支払えば、一定の条件下で追加使用料は不要」という意味で、多くの場合は有料素材を指し、著作権は放棄されていません。
「フリー」という単語が含まれているので紛らわしいですが、「無料」「自由」という意味ではないので、注意しましょう。

無断転載された素材を購入していたら?

ここまで述べた通り、インターネット上で見つけたイラストや写真などの画像素材の利用にあたっては、素材サイトの利用規約をしっかり確認することでトラブルを避けられるケースがほとんどです。
しかし、近年では画像素材サイトから購入したイラストが、実は作者に無断で第三者が転載したものだったと発覚したケースもあり、利用者側だけの問題ではなくなってきています。
そのため、利用者が適切な手続きを踏んでいるにもかかわらず、トラブルに巻き込まれる可能性も十分にありえます。
万が一、画像素材サイトから購入した写真やイラストが無断転載であると判明した場合は、以下のような対応を検討しましょう。

(1)購入した画像素材が無断転載されたものだと発覚した場合
画像素材サイトの使用に関するトラブルとなるため、返金などはサイトの利用規約に基づいて請求しましょう。
画像の使用に伴って損害を被った場合は、損害賠償請求を検討することもありえます。

(2)本来の作者から無断使用を指摘された場合
画像素材サイトから購入していたとしても、画像の作者からは使用許諾を得ていないとみなされるため、著作権侵害に基づく差止請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。
なお、「画像素材サイトから購入している」「無断転載と知らなかった」という状況を踏まえると、善意無過失(十分注意をしていたが、知ることができなかった)と認められる場合も想定できます。
その場合、賠償責任を負うことはありませんが、差止請求による画像の使用停止については対応する必要があります。

インターネットの普及に伴い、ネット上でイラストや写真などの画像素材を探すことが増えてきました。
著作権の侵害については「知らなかった」では済まされないため、フリー素材の利用にあたっては、一定の知識を身につけたうえで利用規約を確認することはもちろん、画像素材サイトの運営会社が信頼できるかチェックするなどの対策も必要です。


※本記事の記載内容は、2024年9月現在の法令・情報等に基づいています。