税理士法人 ANSIA

知っておきたい『インフォームド・コンセント』の必要性と役割とは

24.04.02
業種別【医業】
dummy
医師をはじめとした医療者が、患者やその家族に対して診療内容や治療方針などを説明し、理解と同意を得ることを『インフォームド・コンセント』と呼びます。
日本語で「説明と同意」と訳されるインフォームド・コンセントは、欧米の個人主義を背景に、患者の権利を守るために生まれた概念で、今では世界中に広まっています。
かつて、医師の説明が不十分だったことで、民事責任を問う訴訟も起きており、インフォームド・コンセントの重要性は高まっています。
医療者であれば知っておきたい、インフォームド・コンセントについて解説します。
dummy

患者の自己決定権を保障するためのプロセス

医師や看護師、薬剤師などの医療者は、医療法第1条の4第2項に基づき、医療を提供する際に適切な説明を行い、患者の理解を得るよう努めなければいけないとされています。
たとえば、内科医であれば患者に対して、今、体の中でどういったことが起きていて、これからどのような検査や治療を行い、どういった効能のある薬を処方するのか、といったことを説明し、理解してもらう必要があります。

そもそも、こうしたインフォームド・コンセントは、個人を尊重する社会のなかで、患者の権利を保障するために生まれました。
医療における患者の権利とは、治療を受ける権利と治療を受けない権利、そして、治療を受ける場合に、どういった治療方法をどこで受けるか決めることのできる権利のことです。
これらの権利のことを『自己決定権』といいます。

つまり、患者は、診療内容や治療方針について自分で判断できる自己決定権を持っており、医師は患者が判断するために必要な情報を提供する必要があるということです。

また、幼児などの未成年者や意識障害、認知症、意識不明の患者など、意思の疎通ができない患者の場合は、家族や代理人が患者に代わって意思決定を行うことになります。
その場合は、インフォームド・コンセントの対象者も患者本人ではなく、家族や代理人になります。

かつては、正しいプロセスでインフォームド・コンセントを行わなかったことで、民事訴訟が起きたこともありました。
注意したいのは、こうした民事訴訟は、医師の説明が不十分だったことによる患者の自己決定権の侵害に基づくものだということです。
医療過誤などに基づく医療訴訟ではないため、たとえ適切な治療を提供したとしても、患者に対して説明責任を果たしていなければ、民事訴訟が起きる可能性があります。

積極的に治療へ参加してもらうためのもの

患者の自己決定権を侵害しないためのインフォームド・コンセントですが、それだけではなく、患者や家族に積極的な姿勢で治療に取り組んでもらうためにも欠かせないものとなっています。

患者が、自身の受ける治療の内容や服用する薬の効能を知らないと、勝手な判断で治療を止めたり、薬を飲まなくなってしまったりすることがあります。
インフォームド・コンセントによって、治療や薬の必要性をきちんと理解すれば、患者はより前向きに治療に臨めますし、患者本人や家族の不安を取り除くことにもつながります。
医療者と患者の双方のためにも、インフォームド・コンセントはしっかり行うとよいでしょう。

では、どのようにインフォームド・コンセントを行えばよいのでしょうか。
原則として、インフォームド・コンセントは診察室や面談室、カンファレンスルームなど、患者のプライバシーが守られる部屋で、主治医や担当医が患者やその家族に直接行います。
診療内容や治療方針などは患者ごとに異なりますが、共通するのは患者や家族が理解できるように説明するということです。

医療の世界では、専門用語や医療者間でのみ常識となっている事柄など、一般の患者にはわからないものがとても多くあります。
そのため、専門用語は一般的な用語に置き換えて、難関な事柄は噛み砕いて説明しないと患者に伝わりません。
図や模型などの資料を用いたり、補助として治療の動画を見せたりするなどの工夫をしながら、できるだけわかりやすく伝えることを心がけましょう。

医療者にとって、インフォームド・コンセントに割くことのできる時間はどうしても限られてしまいますが、そのなかでも患者からの質問には真摯に答え、理解を得られるまで説明を尽くすことが大切です。
また、インフォームド・コンセントのプロセスに対して、医療者ごとの差異が出ないように、運用マニュアルを作成し、院内や所内で共有しておくことも必要です。


※本記事の記載内容は、2024年4月現在の法令・情報等に基づいています。