税理士法人 ANSIA

マーケティング視点で見る『ステルス値上げ』の危険性

19.10.08
ビジネス【マーケティング】
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原価や人件費が高騰しても企業の収益を確保するための対処法として、商品の値上げがあります。
一方で、価格はそのままに、商品の量や質を下げるという対処法もあります。
これはいわゆる『ステルス(こっそり行う)値上げ』と呼ばれるものです。
消費税増税により、このステルス値上げを選択する企業が増えてきています。
価格を据え置きのまま量や質を下げた商品を販売し続けることには大きなメリットがありますが、デメリットについても考えておかなくてはなりません。
今回は、マーケティングの視点で『ステルス値上げ』の危険性をご説明します。
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非難の対象になりやすい『ステルス値上げ』

近年、直接的に値上げをするのではなく、商品の内容量などを減らした『実質的な値上げ』、いわゆる『ステルス値上げ』を行う企業が増えてきています。
価格を据え置きのまま販売を続けられるというメリットがある一方で、敏感な消費者にはマイナスのイメージを抱かせてしまう可能性があります。
実際にこのステルス値上げが、炎上案件にまで発展してしまったケースも少なくありません。

具体的なケースでは、江崎グリコのデザート飲料『ドロリッチ』が有名です。
『新感覚の飲むスイーツ』というコンセプトで2007年に発売された『ドロリッチ』は、当初、女性を中心にブームとなり、飛ぶように売れていました。
しかし、2009年をピークに売上は伸び悩み、近年では、ピーク時の10分の1に売上が下がってしまいました。
多くの専門家は、この『ドロリッチ』の敗退の原因が『ステルス値上げ』にあると指摘しています。
『ドロリッチ』は発売当時、一つ150円で内容量は220グラムでした。
しかし、類似商品などの登場で競争が激化し、売上が減少。
その対策として、価格を150円に据え置いたまま、内容量を200グラムに減量。
表向きは、パッケージデザインのほか、コーヒー豆やクリームの配合のマイナーチェンジなどのリニューアルを謳い、同時に減量も行いました。
そしてその後も、180グラム、120グラムと、リニューアルの度に内容量を減らしていきました。
専門家の見解では、このことから、ステルス値上げに敏感な消費者を中心に、買い控えが発生したといわれています。
その結果、売上はますます減少。
2018年には内容量を180グラムに戻しましたが、時すでに遅し。
一度離れた消費者は戻らず、そのまま2019年3月に『ドロリッチ』は生産を終了しました。

この『ドロリッチ』だけではなく、最近ではネット上に『いつの間にか容量が減っている商品wiki』などがつくられ、お菓子やアイスクリーム、チルド商品など、さまざまな商品のステルス値上げが告発されています。

海外でも、日本のステルス値上げと同様の騒ぎは起こっています。
2016年にはアメリカの製菓会社モンデリーズ・インターナショナルが、自社商品のチョコレート菓子をイギリスでの販売分のみ減らしていたとして、物議を醸しました。
ちなみに海外では、ステルス値上げはシュリンク(収縮)とインフレーションを掛け合わせた造語『シュリンクフレーション』と呼ばれています。

商品のマーケティングの視点で見てみると、消費者にマイナスのイメージを持たれた時点で、その商品に対するブランディングは失敗といっていいでしょう。
一度失った信頼を取り戻すのは、並大抵のことではありません。

値上げによる消費者離れを危惧するあまり、内容量を減らすなどのステルス値上げを行う企業心理はわかります。
しかし「騙された」「誠実ではない」と感じる消費者も多く、決して得策とはいえません。
基本的には、ステルス値上げを行ったとしても、必ず消費者には看破されてしまうと考えたほうがいいでしょう。


内容量を増やす逆転の発想で顧客を獲得

2018年に消費者庁が行ったモニター調査では、80.8%の人が『3年前と比較して実質値上げが増えたと感じる』と回答しています。
そして、19.1%が『物価上昇による実質値上げは仕方がない』と答えているのに対し、22.6%が『実質値上げは不誠実だと感じる』と答えています。
とはいえ、目に見える値上げがいいということにもなりません。
直接的な値上げで客離れが起きるケースも多く、企業側は苦しい選択を迫られています。
しかし、そんな苦しい状況のなかでも、2018年にカルビーが行ったキャンペーンは大きな話題になりました。

2017年、台風などの影響でポテトチップスの原料となるジャガイモの産地、北海道が大きな打撃を受け、充分な収穫が見込めなかったことから、ポテトチップスの販売中止が相次ぎました。
そのお詫びとして、翌年カルビーは、ポテトチップスなどを含む23の商品の内容量を、10%から25%ほど増やすキャンペーンを行いました。

このステルス値上げの真逆を行く『増量キャンペーン』は大成功し、ポテトチップスの売上は、前年比9.2%の増収となりました。
さらに、このキャンペーンにより、カルビーは売上の拡大だけではなく、多くの消費者の支持を得たといえるでしょう。

企業は常に人材不足や原材料費の高騰、消費の鈍化などの問題と向き合っていかなければなりません。
もちろん、他社がカルビーと同じような増量キャンペーンを行ったからといって、必ずしも成功するとは限りません。
しかし、今後は、直接的な値上げやステルス値上げだけではない、こういった新たな発想も必要になってくるのではないでしょうか。


※本記事の記載内容は、2019年10月現在の法令・情報等に基づいています。