税理士法人 ANSIA

『労働基準法』が適用されない人や状況を把握しておく

24.12.24
ビジネス【労働法】
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「労働基準法」は、労働者の賃金や就業時間、休日・休憩など、労働条件の原則や基準を定めた法律です。
使用者と労働者は対等な関係であるべきですが、経済的な力関係によって不平等になってしまう可能性が高いことから、同法によって最低限の基準が定められています。
しかし、この労働基準法の適用を受けないケースがいくつかあります。
労働基準法の適用除外となるのは、どのようなケースなのか、それぞれの要件を確認しておきましょう。

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自然や生き物に左右される職業

1947年に施行された労働基準法は、時代の変化に合わせて何度も改正を繰り返し、現在の形になりました。
2024年の改正では労働条件明示のルールが変更されています。

労働基準法は労働者を守るための法律で、賃金の支払い方や労働時間、休日の付与などについて、細かい規定が定められています。
賃金は原則、通貨で直接労働者に全額を毎月1回以上、一定の期日を定めて支払う必要がありますし、労働時間は原則として休憩時間を除いて1日8時間、1週間に40時間以上は働かせてはいけないことになっています。
また、休日についても、最低1週間に1日、もしくは4週間を通じて4日以上は与えないといけません。
そのほかにも、休憩時間や割増賃金、年次有給休暇、解雇・退職などについて規定が定められており、正社員だけに限らず、パートやアルバイトであっても労働基準法は適用されます。

しかし、原則、国家公務員の一部などを除くすべての労働者に適用される労働基準法ですが、一部のケースでは適用が除外されることがあります。
たとえば、林業を除く農業、畜産業、水産業に従事する労働者は、労働基準法第41条によって、労働時間、休憩・休日の規定から除外される旨が定められています。
これらの職業は自然や生き物を相手にするため、労働基準法の規定に適していないことがその理由です。

管理監督者や監視・断続的業務の従事者

同じく第41条では、「管理監督者」についても労働時間、休憩・休日の規定から除外すると定めています。
管理監督者とは、「労働条件の決定や労務管理などにおいて、経営者と一体的な立場にある者」と定義されます。
近年は権限のない者を管理監督者とする「名ばかり管理職」が社会問題にもなりました。
管理職である「部長」や「工場長」などの役職をつければ自動的に管理監督者となるわけではなく、自身の出退勤に裁量権があり、その地位にふさわしい待遇が与えられている経営者と同じ立場の者が管理監督者に該当します。
つまり、経営者と同等の立場であるがゆえに、管理監督者は労働者ではないということになります。

さらに、秘書など、経営者や管理監督者の活動と密接に結びついている「機密の事務を取り扱う者」と、「監視や断続的業務に従事する者」も労働時間や休憩・休日の規定から除外されます。

「監視や断続的業務に従事する者」の監視とは、身体的・精神的緊張の少ない監視労働が中心となる業務のことで、交通関係の監視やプラントの計器類の監視、危険な場所での監視などは適用除外の対象外になります。
断続的業務とは、休憩は少ないものの手持ち時間が多い業務のことを指し、精神的な緊張を強いられる業務や通常の業務と断続的業務が混在する業務などは適用除外の対象外です。
また、「監視や断続的業務に従事する者」を適用除外にするためには、労働基準監督署長の許可を受けなければいけません。

気をつけたいのは、労働基準法第41条で適用が除外されるのは、労働時間や休憩・休日の規定のみということです。
深夜労働や年次有給休暇の規定など、それ以外の労働基準法の規定は適用されるので注意してください。

船員と、同居の親族と家事使用人の場合

労働基準法第116条でも、一部のケースでの適用除外を定めています。
長い間船の上で暮らすことになる「船員」については、労働と生活が一体となり、労働基準法の規定にそぐわないため、労働基準法の一部が適用除外となります。

また、事業を共に行なっている「同居の親族」と、家事一般に従事する「家事使用人」については、労働基準法のすべてが適用除外になります。
つまり法令上、同居の親族と家事使用人は労働者ではないということです。

同居の親族に関しては、生活を共にする同居の親族は公私共に経営上の利害が一致しているため、一般的な労使関係に当てはめることができないのが適用除外の理由です。
ただし、同居の親族に加えて、1人でも他人を雇用している場合、その事業については労働基準法が適用されます。
その場合でも原則として同居の親族は労働基準法が適用されません。
なお、事業主の指揮命令に従っているのが明確であり、就労の実態がほかの労働者と同じで、賃金もこれに応じて支払われている場合には、同居の親族であっても労働基準法上の労働者として扱うことになる場合があります。

また、「家事使用人」についても、これまでは労働基準法が適用されてきませんでしたが、2022年に家事代行で働く女性の急死が労災と認められなかったことで、適用除外の規定が問題となりました。
厚生労働省が第116条に規定に関しては実態調査に乗り出す方針を固めたこともあり、将来的に労働基準法が適用される可能性もあります。
家事使用人が労働者か否かの問題については、今後の動きを注視していく必要があります。


※本記事の記載内容は、2024年12月現在の法令・情報等に基づいています。