酒井会計事務所

『高額療養費制度』について患者から説明を求められたら

25.01.07
業種別【医業】
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1カ月にかかった医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合に、その超えた分を支給するのが「高額療養費制度」です。
上限額は患者の年齢や所得によって決められており、負担をさらに軽くする仕組みも設けられています。
患者は医師から説明を受けてみずからの治療法を選びますが、その際に治療費の額が意思決定に影響することが多々あります。
患者から求められた際に説明できるよう、高額療養費制度について理解を深めておきましょう。

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患者の負担を抑えるための高額療養費制度

日本は国民皆保険制度を通じて、世界でも有数の保健医療水準を実現しており、怪我や病気をしても、誰もが安価な医療費で高度な医療を受けることができます。
現在、医療費の自己負担の割合は、6歳(義務教育就学前)までは2割、69歳までは3割、70歳から74歳までは原則2割、75歳以上は原則1割と定められています。
ただし、現役並みの所得がある場合は、70歳以上でも自己負担の割合は3割になります。

しかし、患者は1~3割の自己負担で高度な医療が受けられるものの、重い病気や長期入院などによって医療費が高額になり、自己負担が過重になってしまうこともあります。
そこで、日本では高額な医療費がかかった場合に、負担を軽くする「高額療養費制度」が設けられています。
高額療養費制度は保険医療機関や保険薬局で支払う自己負担額が1カ月の上限を超えた場合に、後からその超えた分の支給を受けられる制度です。
この上限は「自己負担限度額」と呼ばれ、1月ごとに計算されます。
たとえば5月20日から6月15日までに高額の診療を受けた場合、5月と6月の分をそれぞれ計算し、5月20日~31日までの自己負担額が自己負担限度額を超えた場合にその額が、6月1日~15日までの自己負担額が自己負担限度額を超えた場合にその額が後から払い戻されます。
もし、5月20日から6月15日までにかかった医療費の総額が、自己負担限度額を超えていたとしても、対象月ごとに分けて計算した際に自己負担限度額を下回っている月については、高額療養費制度の対象外となります。
なお、この対象となる金額は保険適用分のみのため、入院時の食事代や差額ベッド代などは除いて計算します。

年齢や所得で変わる1カ月の自己負担限度額

1カ月の自己負担限度額は、年齢や所得に応じて定められています。
70歳未満は所得水準によって、アからオまでの5つの適用区分があります。
「区分ア」は年収約1,160万円以上、「区分イ」は年収約770~約1,160万円、「区分ウ」は年収約370~約770万円、「区分エ」は年収約156万~約370万円以下、「区分オ」は住民税非課税者が対象となります。

所得水準が高ければその分、自己負担も大きくなります。
たとえば、区分アの対象者が100万円の医療費が発生する治療を受けた場合、自己負担限度額は25万4,180円になりますが、区分エの対象者が同じ治療を受けた場合、自己負担限度額は5万7,600円になります。

70歳以上の場合も所得水準によって自己負担限度額が決められています。
適用区分は大きく「現役並み」「一般(年収156万~約370万円)」「住民税非課税等」があり、「現役並み」はさらに3区分、「住民税非課税等」が2区分に分けられ、同じく所得水準が高ければその分、自己負担も大きくなります。
たとえば、現役並みの所得があり、70歳以上で年収約1,160万円以上の人は、70歳未満の区分アの人と同等の自己負担限度額となります。

また、「一般」と「住民税非課税等」には外来だけの自己負担限度額も設定されており、一般の外来の自己負担限度額は1万8,000円、住民税非課税者の外来の自己負担限度額は8,000円となっています。

各適用区分の計算式や詳しい自己負担限度額は、厚生労働省や全国健康保険協会のホームページなどで確認しておきましょう。

負担をさらに軽くするための仕組み

高額療養費制度には患者の負担をさらに軽くする仕組みも設けられています。
その一つが「世帯合算」です。
世帯で複数の方が同じ月に病気や怪我をして、医療機関を受診した場合、世帯で自己負担額を合算することができます。
その合算した分が自己負担限度額を超えていれば、超えている分については後で支給されます。
ただし、世帯合算は世帯で同じ健康保険に加入していることが条件になります。
たとえば共働きなどで、夫婦がそれぞれ別の会社の健康保険や協会けんぽに加入している場合は、世帯合算が使えません。
また、70歳未満の人の受診については、2万1,000円以上の自己負担のみ合算されます。

さらに、同じ月に受診した複数の医療機関の支払いを合算する仕組みや、過去12カ月以内に3回以上自己負担限度額を超えた場合は、4回目から自己負担限度額が下がる仕組みなども設けられています。

ほかにも、高額療養費制度を利用する患者に伝えておきたいのが「限度額適用認定証」の申請です。
自己負担限度額を超えた分の支給を受けるには、いったん患者が医療機関の窓口で医療費を立て替え、後で自身の加入している医療保険に申請する形となります。
一時的にとはいえ、窓口で支払う医療費が高額になる場合は、患者の大きな負担となりますが、加入している医療保険に申請して限度額適用認定証を取得しておけば、窓口での支払いが最初から自己負担限度額までになります。
また、窓口でマイナ保険証を提出し、「限度額情報の表示」に同意するという方法でも、窓口での支払いを自己負担限度額までにできます。

高額療養費制度はすべての国民が安心して医療を受けられるようにする制度です。
自己負担限度額の引上げなど、制度の見直しも検討されているので、今後の動きを注視しておきましょう。


※本記事の記載内容は、2025年1月現在の法令・情報等に基づいています。