酒井会計事務所

役員借入金が相続税の対象に? 事前対策ポイントを解説

25.01.07
業種別【不動産業(相続)】
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多くの中小企業において、資金繰りのために役員個人のお金を会社に貸し付けることがあります。
このように役員が個人として会社に貸し付けているお金を「役員借入金」といいます。
この「役員借入金」は、一見すると便利な資金調達の手段に思えますが、相続時に大きな問題となる可能性があります。
今回は、役員借入金の基本的な仕組みと相続に関するリスクについて解説していきます。

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役員借入金のメリット・デメリットとは?

役員借入金とは、会社が役員(主に社長)から借り入れているお金のことを指します。
たとえば、会社の資金が一時的に不足した際に、社長が個人の資産から会社に500万円を貸し付けた場合、この500万円が役員借入金となります。
会社の決算書では、この借入金は「役員借入金」という勘定科目で負債として計上されます。
つまり、会社にとっては「返済しなければならないお金」として扱われるのです。

役員借入金は、主に会社設立時の運転資金の確保や、急な支払いへの対応、さらには設備投資や事業拡大の資金調達など、さまざまな場面で活用されています。
特に中小企業では、銀行からの融資を受けづらい場合の代替手段として利用されることも多いのが現状です。

役員借入金の重要な特徴は、相続が開始した際に相続財産として扱われることです。
役員借入金は被相続人の貸付金、つまりは確実に返済されるべき債権として見なされるため、相続人にとっては「会社から受け取れるお金」として相続税の課税対象となります。
この点は多くの経営者が見落としがちな重要なポイントといえます。

これにより、相続時には二つの大きな問題に直面する可能性があります。
一つ目は、会社の経営状態による影響です。
会社が債務超過に陥っている場合でも、原則として役員借入金の評価額を下げることはできません。
つまり、実際には回収がむずかしい状況であっても、相続税の計算上は全額が相続財産となってしまうのです。
二つ目は、納税資金の不足リスクです。
役員借入金は相続人から見れば、被相続人の貸付金という「紙の上の財産」であり、実際にはすぐに現金化できるわけではありません。
しかし、相続税は現金での納付が必要となるため、相続人の納税資金が不足する事態に陥る可能性があります。

このように、役員借入金は会社経営において便利な資金調達の手段である一方で、相続時には予期せぬ問題を引き起こす可能性があります。
経営者は、これらのリスクを理解したうえで、適切な対策を講じることが重要です。

役員借入金を減らすためにできること

相続が開始した後に、役員借入金の対策を講じるのは非常に困難です。
そのため、相続税の問題を回避するには、相続開始前から計画的な対策を講じることが重要となります。
ここでは、役員借入金を減らすための具体的な方法について解説していきます。

(1)資本金への振り替え(DES)
DES(デット・エクイティ・スワップ)とは「債務の株式化」、つまり役員借入金を株式(資本金)に振り替える方法です。
借入金が資本金となることで、自己資本比率が増加し、会社の財務体質が改善され、金融機関からの評価も上がる可能性があります。

(2)役員報酬の調整による返済
役員報酬を一時的に減額し、その分を役員借入金の返済に充てる方法です。
現実的な対策ですが、役員報酬の減額分だけ会社の利益が増えることになり、法人税の支払いが増える可能性があります。
また、役員報酬を期中に変更することはできません。
そのため、役員報酬の調整(減額)は事業年度開始時に行う必要があります。

(3)債権放棄の検討
役員が借入金の債権を放棄する方法もあります。
ただし、この場合、会社側で債務免除益が発生し、課税対象となる可能性があります。
また、状況によっては、ほかの株主への贈与と見なされることもありますので、注意しましょう。

(4)会社への貸付金の贈与
役員借入金を、推定相続人に生前贈与する方法です。
この場合、贈与税の基礎控除110万円を超えなければ、贈与税が課税されません。
ただし、生前贈与加算といって、相続時期によっては、生前贈与した分が相続財産に含まれることもあります。
生前贈与加算の年数は従前の相続開始前3年間の贈与から、現行では相続開始前7年間の贈与までと段階的に延長されているため、早めの対策が重要となります。

役員借入金は便利な資金調達の手段ですが、さまざまなデメリットも存在します。
金融機関から新規で融資を受ける際のイメージにも関わるため、極力、役員借入金がない状態にしておきましょう。
知らないうちに役員借入金が増えていたということがないように、日常的な資金管理を徹底するのはもちろん、役員借入金がある場合は、相続開始前の早い段階から、計画的に役員借入金の解消を進めましょう。


※本記事の記載内容は、2025年1月現在の法令・情報等に基づいています。