税理士法人Ambitious

労働基準法に違反しない年次有給休暇の届出のルールを作るには

23.10.09
ビジネス【労働法】
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『年次有給休暇』とは、一定の期間継続して勤務した従業員が心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を送ることを目的とした休暇のことです。
有給なので、従業員は年次有給休暇を取得する際、その分の賃金の支払いを受けます。
年次有給休暇の取得は、休暇を希望する従業員が会社に届出を行なうのが一般的ですが、その方法は法律で定められておらず、各社がそれぞれ独自にルールを定めています。
しかし、届出のルールによっては、労働基準法に違反してしまうケースもあります。
労働基準法違反にならないように、年次有給休暇の届出のルールを改めて確認しましょう。
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年次有休は自由に取得できる労働者の権利

従業員には会社が定める所定休日とは別に、年次有給休暇を付与することが労働基準法によって義務づけられています。
年次有給休暇を取得できるのは、雇い入れの日から継続して6カ月が経過しており、その期間の全労働日の8割以上出勤している労働者に限られます。
有休休暇の付与方法は会社によってさまざまですが、要件を満たしたタイミングで、規定の日数以上の年次有給休暇を与えなければいけません。
また、付与日数は継続勤務年数ごとに増えていき、雇入れの日から起算した勤続期間が6年6カ月以上の従業員には20日間の年次有給休暇を付与する必要があります。

パートやアルバイトなど、所定労働日数が少ない短時間労働者であっても、週の所定労働時間が30時間未満かつ週の所定労働日数が4日以下、または週所定労働時間が30時間未満かつ1年間の所定労働日数が216日以下の従業員には、所定労働日数に応じて年次有給休暇を付与します。

年次有給休暇は労働基準法で定められた労働者の権利なので、本来は取得する際に会社側の許可や調整などは必要ありません。
付与された日数内であれば、従業員は原則自由にいつでも取得することができます。
しかし、従業員の誰もが希望する期間やタイミングで年次有給休暇を取得してしまうと、極端に労働力の足りない日が出てきてしまい、業務に支障をきたしてしまいます。

そのような事態を防ぐために、大半の会社は年次有給休暇の届出に関するルールを定め、就業規則などに記載しています。
しかし、ルールによっては労働基準法に抵触する可能性もあり、裁判などで無効と判断される場合もあります。
まずは、自社の就業規則が法的に問題のないルールになっているかを確認しましょう。

届出の日数の注意点と時季変更権

年次有給休暇のルールを定める際に重要なのは、届出の期限に関しての規定です。
原則として、年次有給休暇は従業員から指定された希望の日時に取得させる必要があり、「◯日前までの届出を義務づける」など、届出の期限を設定することは認められていません。
前日に従業員から届出を受けても、会社側は拒否することはできないのです。

ルールを策定するうえでのポイントは、就業規則に「特別な理由がない限り、◯日前までの届出を要する」と記載するなどして、特別な理由があれば前日の届出も可能である旨を盛り込んでおくことです。

また、届出を要する期間も合理的な範囲内にする必要があります。
会社の業態などによって、届出を要する期間はさまざまですが、通常は2~3日前であれば合理的な範囲といえます。
しかし、たとえば「3カ月前までの届出」とすると、長期間にする合理的な理由がない限りは、無効と判断されることがほとんどです。

一方で、繁忙期のタイミングや複数の従業員から同時期に有給休暇の請求があった場合に、会社側は労働基準法第39条第5項に基づき、従業員の年次有給休暇を別の日にすることができます。
この労働者から請求された年次有給休暇を変更できる会社側の権利のことを『時季変更権』といいます。
時季変更権が認められるのは、従業員から請求されたときに有給休暇を与えることで、事業の正常な運営が妨げられる場合に限られます。
ただし、会社はまず代理勤務の手当てをするなど努力を検討することが求められます。
必ずしも時季変更権が行使できるわけではないことに注意しましょう。
また、単に「人手不足だから」「いつもより忙しくなりそうだから」という理由で、時季変更権が認められることはありません。

時季変更権を行使した場合は、該当の従業員に、再び希望の年休取得日を指定してもらうようにしましょう。
その際、会社側から年休取得日を指定してはいけません。

日本では、年次有給休暇が制度として存在しているにもかかわらず、かねてから年次有給休暇取得率が全体的に低いという問題がありました。
2019年4月1日には、『働き方改革』の一つとして労働基準法が改正されました。
そのなかで、一年で新たに付与された法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の労働者に対し、年5日は確実に年次有給休暇を取得させることが事業者に義務づけられました。
なお、時季指定の場合は労働者の意見を聞くこと、年次有給休暇管理簿を作成し5年間保管することが必要です。

従業員に年次有給休暇の取得を促すために、5日を超える分については、労使協定を結んだうえで、会社側が従業員の年休取得日をあらかじめ決めておける『年次有給休暇の計画的付与制度』を導入しているところもあります。
ちなみに、年次有給休暇の労使協定は、計画的付与や時間単位年休制度など内容によってさまざまあります。
半休制度については労使協定は不要です。いずれの場合も就業規則への記載は必須となります。

大切なのは、自社に合わせたルールや制度の設計です。
会社側は年次有給休暇について理解を深め、適正な取り扱いを心がけるべきでしょう。


※本記事の記載内容は、2023年10月現在の法令・情報等に基づいています。