税理士法人Ambitious

『個別労働紛争解決制度』が利用できる紛争とできない紛争

23.09.26
ビジネス【労働法】
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近年、個別労働紛争の発生件数が高止まり傾向にあります。
個別労働紛争とは、解雇や雇止め、労働条件の不利益変更など、事業主と労働者との間で生じる労働トラブルのことです。
労使間での解決が困難な場合は、各都道府県の労働局による『個別労働紛争解決制度』を利用することができます。
この個別労働紛争解決制度は、事業主と労働者の両方が無料で利用できます。
しかし、どのような紛争でも適用されるわけではありません。
労働トラブルが生じたときのために、制度の対象となる紛争を把握しておきましょう。
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個別労働紛争解決制度を利用できるケース

雇用形態や労働環境の変化などにより、労働トラブルは増加傾向にあります。
2023年6月30日に厚生労働省が公表した『令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況』では、総合労働相談の件数が124万8,368件と、15年連続で100万件を超えました。
助言・指導やあっせんは前年度よりも減少しているものの、依然として高止まりの傾向にあります。
内訳は、総合労働相談、助言・指導、あっせんの全項目で「いじめ・嫌がらせ」が最多となっています。

個別労働紛争解決制度は、こうしたいじめ・嫌がらせを筆頭に、パワハラやセクハラなどのハラスメント、人間関係や仕事の量・質といった職場環境をめぐる紛争や、労働条件に関する紛争などの労働トラブルを迅速かつ適正に、裁判によらず解決に導くための制度です。
個別労働紛争解決制度には『総合労働相談』『助言・指導』『あっせん』があり、まず当事者からの相談や申し出を経て、都道府県労働局長の助言・指導が行われ、解決しない場合はあっせんに移行します。

ちなみに、個別労働紛争解決制度は労働者だけではなく、事業主も利用することができます。
近年は無断で遅刻・欠席をしたり、業務に真面目に取り組まなかったりといった、いわゆる問題社員が顕在化しています。
問題社員の存在は、ほかの従業員のモチベーションを下げるなど、職場環境の悪化を招きます。
もし、このような問題社員の行動に悩まされているのであれば、所轄の労働局に相談してみることも改善方法の一つです。

また、解雇、雇止め、労働条件の不利益変更などの労働条件に関する紛争も、個別労働紛争解決制度によって解決を図ることができます。
実際に、総合労働相談、助言・指導、あっせんの全項目で「いじめ・嫌がらせ」に続いて多いのが、「自己都合退職」「解雇」「労働条件の引き下げ」などの労働条件に関する紛争となっています。
その他、具体的な例としては、「従業員が配置転換に応じてくれない」「従業員に業務命令を拒否された」といった「配置転換」や「雇用管理」上のケースにおいて、事業主が個別労働紛争解決制度を利用することがあります。

ほかにも、損害賠償をめぐる紛争や、労働契約に関する紛争などでも個別労働紛争解決制度が利用されています。
たとえば、従業員の過失によって会社が損害をこうむった場合や、従業員の退職に伴う研修費用の返還を求める場合などに、事業主は労働者に対して損害賠償請求を行うことがあります。
事業主による労働者への損害賠償請求は、民法第415条(債務不履行による損害賠償)および民法第709条(不法行為による損害賠償)に定められた権利ですが、事業活動において一般的に発生すると予想される損害については、労働者にその責任のすべてを求めることは極めてむずかしいとされています。
損害賠償をめぐる労使間の話し合いがこじれてしまった場合は、個別労働紛争解決制度の利用を検討してもよいでしょう。

個別労働紛争解決制度の対象外となる紛争

労使間の紛争を解決に導いてくれる個別労働紛争解決制度ですが、どのような紛争でも対象になるわけではありません。
まず、あくまで労使間の紛争を解決するための制度なので、労使間ではない労働組合と事業主や、労働者同士の紛争などは取り扱っていません。
もし、労働組合と紛争になった場合は、集団的労働関係となるため、各都道府県の労働委員会による労働争議の調整や不当労働行為審査など、労働組合法、憲法を中心に解決を図ることになります。

また、すでに裁判で判決が確定した紛争や、裁判で係争中の紛争、ほかの法律において紛争解決援助制度を利用し、解決を目指している紛争なども個別労働紛争解決制度を利用することができません。
このほか、法的な制度を使わずに、労働組合と事業主の間で問題として取り上げられており、両者の間で自主的な解決を図るべく話し合いが続けられている紛争も制度の対象外です。
あくまで労使間において話し合いで決着がつかない場合に、初めて個別労働紛争解決制度の利用を検討しましょう。

個別労働紛争解決制度の利用を検討する際に注意したいのは、労働者がこれらの制度を利用したことを理由として、事業主が労働者に対して不利益な取扱いをしてはならないことです。
労使間の紛争が起きて話し合いでも解決しない場合は、放置しておくのではなく、できるだけ早く個別労働紛争解決制度を利用するための手続きを検討しましょう。
制度が利用できる紛争なのかそうでないのか悩むケースは、専門家などに相談すると安心です。


※本記事の記載内容は、2023年9月現在の法令・情報等に基づいています。