税理士法人Ambitious

薬を飲まない&服薬を止める『アドヒアランス不良』の患者にできること

25.11.04
業種別【医業】
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診察時に「薬をきちんと飲んでください」と伝えても、実際には服薬を忘れたり、自己判断で中断したりする患者がいます。
認知症などの場合、自身が病気であるという認識がないため、「薬なんて必要ない」と服薬を拒否してしまうケースがあります。
また、症状がよくなってくると、「もう大丈夫」と考え、自己判断で服薬を止めてしまう患者も少なくありません。
これらは、医師の指示通りに服薬しない、いわゆる「アドヒアランス不良」と呼ばれる状態です。
薬を飲まない・止めてしまうアドヒアランス不良の患者への対応について、その原因や対策などを考えていきます。

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医師の指示に従わないのはなぜなのか?

「アドヒアランス(Adherence)」とは、医療において「患者が治療方針の決定に積極的に参加し、その決定に従って治療を受けること」を意味します。
そして、アドヒアランス不良とは患者が医師らと合意したはずの治療方針に沿った治療を継続できない状態を指します。

内閣府が2019年に行なった「薬が効かない(薬剤耐性)感染症に関する世論調査」によると、「抗生物質を医師・薬剤師の指示どおりに飲んでいるか」という質問に対し、82.0%の人は「指示を守って飲むことを意識している」と答えたのに対し、13.0%の人は「指示どおり飲まないことがある」と答えました。

この服薬に関するアドヒアランス不良の背景には、「忘れてしまった」という単純なものから、患者の心理や生活習慣に根ざした複雑なものまで、さまざまな理由があります。

同調査(複数回答)によると、指示どおりに薬を飲めない理由について、「途中で治ったらそれ以上必要と思わないから」という回答が52.3%、「そもそも薬を飲むのは最低限にしたいから」が35.6%、「指示どおり飲むのを忘れてしまうから」が34.7%でした。
ほかにも、「自分の体調に合わせて調整したいから」や「副作用が心配だから」といった回答がありました。

「もう治った」という自己判断は、特に生活習慣病などのように自覚症状が少ない病気で多く見られるといわれています。
「調子がよいからもう治ったのだろう」「薬に頼りたくない」といった思いから、患者は服薬を中断してしまいます。

また、薬には効果だけでなく、副作用のリスクもつきものですが、「この薬を飲むと気分が悪くなる」「眠気がひどくて仕事に支障が出る」といった実際の経験に加え、インターネット上の不正確な情報などで不安が増幅され、服薬に抵抗を感じることもあります。
特に真面目な人ほど、こうした情報を過度に信じ込みやすい点にも配慮が必要です。

さらに、認知症や統合失調症などの病を抱える患者の場合、服薬拒否はより複雑な問題となります。
なぜなら、自分が病気であるという認識がないため、薬の必要性を理解できないケースがあるからです。
被害妄想から「これは薬でなく毒を盛られているのではないか」といった根拠のない恐怖を抱くこともあり、周囲の働きかけだけでは解決がむずかしいケースも少なくありません。

薬を飲まない・止めてしまう患者への対策

患者が薬をきちんと飲まない原因を理解したうえで、医療従事者は具体的な対策を講じなければなりません。
大切なのは、患者を責めるのではなく、なぜ薬が飲めないのかという「患者の声」に耳を傾け、一緒に解決策を探す姿勢です。

まずは一対一で向き合い、じっくりと話を聞く時間を確保しましょう。
患者が何を不安に思っているのか、何に抵抗を感じているのかを丁寧に尋ねることで、本当の理由が見えてきます。
「最近、体調の変化はありますか?」「薬を飲むうえで何か困っていることはありませんか?」といった質問で、話しやすい雰囲気をつくりましょう。

同時に、薬の必要性をわかりやすく説明することも大切です。
患者自身が納得して服薬を続けるためには、薬の目的や効果を理解してもらわなければいけません。
専門用語を避け、具体的なベネフィットとリスクを並列に説明し、治療目的と服薬期間を明確化し、わかりやすく説明することを心がけましょう。

薬の飲み忘れや管理のむずかしさが原因の場合、患者の生活スタイルに合わせた工夫を提案することも大切です。
複数の薬を服用している場合は、服薬のタイミングごとに薬をまとめる一包化やピルケース、服薬アプリの活用も有効ですし、可能なら処方の簡素化も検討します。
特に高齢者などは、異なる診療科から複数の処方を受けていることがあり、そのことがアドヒアランス不良につながることもあります。

服薬の問題が医師一人の力だけで解決できないことも多いため、看護師や薬剤師、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど、他職種と連携することで、多角的な視点からアプローチできます。
特に薬剤師は、薬の専門家として、患者の服薬状況を詳しく把握し、飲み忘れや副作用の原因を探るうえでの重要な役割を担います。

ほかにも、患者の家族や介護者との連携なども重要です。
家族に薬の重要性を理解してもらい、服薬をサポートしてもらうことで、服薬状況が改善するケースもあります。

薬を飲まない・止めてしまう問題は、原因を丁寧に探り、患者の気持ちに寄り添うことが何よりも大切です。
原因に合わせて対策を講じ、継続的に見直していくことが重要です。


※本記事の記載内容は、2025年11月現在の法令・情報等に基づいています。