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『農地』が資産リスクに? 生産緑地の相続と対策ガイド

25.08.05
業種別【不動産業(相続)】
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都市部の貴重な緑地として保全されてきた生産緑地。
1992年の制度創設から30年が経過し、多くの農地が指定解除可能となる「2022年問題」が注目を集めました。
大規模な混乱が回避された一方で、相続問題が複雑化し続けています。
農地法の厳しい制限や相続税評価の複雑さに加え、後継者不足の問題から、多くの都市農地が「負動産」として扱われるリスクも高まっています。
今回は、生産緑地制度の現状と、相続対策で押さえるべきポイントを解説します。

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生産緑地の『2022年問題』と今の状況

生産緑地制度は、1992年の都市計画法と生産緑地法の改正をきっかけに始まりました。
この制度は、市街化区域内の農地等を「生産緑地」として指定し、30年間農業を継続することを条件に、固定資産税を農地並みに軽減する仕組みです。
指定を受けた土地の所有者は、その代わりに農地等として維持・管理する義務を負うことになっていました。

そして2022年、制度開始から30年を迎え、多くの生産緑地が「30年縛り」から解放されました。
この時点で所有者は自治体に「買取申し出」をすることが可能になり、自治体が買い取らない場合は、売却や住宅地への転用も可能になります。
しかし、予想された市場の混乱や地価下落は起きず、多くの地主が「特定生産緑地制度」による10年延長を選択しました。
この制度では、農業を継続する意思がある土地を再指定することで、税制優遇や農地としての扱いをさらに10年間継続することができます。
一方で、農地転用には高額な費用や手間がかかることや、相続税納税猶予を受けた相続税負担、都市内農地の接道・用途地域による開発制限などもあり、多くの地主が転用を控える理由となっています。

相続の面では問題が増加しています。
後継者が農業継続の意思がない場合、農地が「持ち腐れ」となり、固定資産税負担だけが残るケースが増加傾向にあります。
このような状況を踏まえ、生産緑地の活用と相続税対策には早目の検討と具体的な準備が必要です。

農地の相続で起きる3つの落とし穴

農地を相続する際には、多くの課題が伴います。
特に注意すべき点として3つの「落とし穴」があります。

(1)農地法の壁と都市農地の扱いにくさ
農地は原則として「農地」としてのみ利用可能であり、売買や贈与、転用には農業委員会の許可が必要です。
生産緑地の場合、買取申し出後に行政が買い取らなければ「自由利用」が可能になりますが、転用手続きや開発行為許可など、複数の手続きを経る必要があります。
市街化区域内であっても、開発がむずかしいケースがあり、特に小規模で不整形な農地は、価値が低くみられることもあります。
このため、「農地のままでは活用も売却もむずかしい」という状況が生じることが現実です。

(2)相続税評価の落とし穴と納税リスク
生産緑地は宅地並みの価格で評価されますが、相続税上の軽減措置の適用がむずかしいことがあります。
相続人が農業を継続しない場合、「遊休地」として評価が割高になり、納税資金確保に苦労するケースが多発しています。
小規模宅地等の特例や農業後継者向けの納税猶予などの制度はありますが、要件が厳しく、適用が困難な場合も少なくありません。

(3)名義変更・活用放置による「負動産化」リスク
農業を継続せず、活用見込みもない農地が「名義だけ相続されて放置」されるケースが増えています。
放置したままでは、指定解除後に固定資産税が宅地並課税に移行し、毎年のコスト負担が発生するほか、共有で相続した場合には、売却や処分について全員の合意が必要となり、状況がさらに複雑化します。
最終的には自治体の「管理不能土地」として問題化する懸念もあります。

こうした状況を踏まえ、農地所有者とその相続人は早めに対策を検討する必要があります。
市民農園や体験農園としての貸付活用により、農地としての利用を継続することや、用途変更や農地転用の可能性を調査しておくことも重要です。

相続人間で、管理方針の合意形成を進めるため、家族で話し合いを行うことも欠かせません。

都市部の農地は、単なる「余剰資産」ではなく、管理や相続方法次第で大きな負担に変わる可能性があります。
制度転換期を迎えた今こそ、専門家のアドバイスを受けながら、計画的な対策を講じることをおすすめします。


※本記事の記載内容は、2025年8月現在の法令・情報等に基づいています。