石田勝也税理士事務所

不正会計が起こる原因と事例から防止策を考える

22.11.08
ビジネス【税務・会計】
dummy
企業経営において、あってはならないことの一つが『不正会計』です。
不正会計とは財務諸表の意図的な改ざんや、経営状態の適切な把握に必要な情報を隠ぺいする行為です。
改ざんや隠ぺいにより作成された財務諸表は、利害関係者(出資者やメインバンクをはじめとする取引金融機関)からみれば信憑性の高い財務諸表とはいえません。
そのため不正会計が発覚すると、金融機関から融資を受けられなくなったり、訴訟受けることや刑事責任を問われたりする場合もあり、最悪の場合、企業の存続にかかわります。
そこで今回は、不正会計が起こる理由や不正会計の種類、事例を取り上げながら、防止方法を解説します。
dummy
不正会計はなぜ起きてしまうのか

不正会計が起こる主な要因は次の3つがあると考えられます。

(1)過度のプレッシャー
(2)組織の不透明性(不正が起こりやすい環境)
(3)倫理観の欠如

達成不可能な過度なノルマを課すような組織風土や、ノルマが達成できなければ懲罰されるといった場合、従業員はノルマ未達を隠すために不正を犯す可能性があります。
また、経理担当者が1名しかおらずチェック体制が甘いといった場合や、組織体制が不透明など、自然に不正が起きやすい環境をつくり上げていることがあります。
さらに『第三者の目が届かないこと』や『第三者がいても何も指摘しない』といった状況でも、組織全体の倫理観が欠如していきます。
組織全体で倫理観が欠如してしまった場合、不正を行っている本人は無自覚であることも珍しくありません。
このような組織では不正行為が常態化するおそれがあります。


不正防止対策はどのように考える?

無自覚の不正も含め、どうすれば不正会計を防ぐことができるのでしょうか。
防止策として以下の3つがあげられます。

(1)匿名の内部通報制度を拡充する
(2)調査部門の独立性の確立と権限の付与
(3)従業員へのコンプライアンス教育の実施

(1)の内部通報制度を機能させるうえで大切なのは、匿名性の確保と、そのことを社内で周知することです。
気づいた人が安心して報告できる体制をつくり、「気づいていながら報告できない」といった状況を変えていくことが大切です。

また、調査部門の独立性も重要です。
周囲の影響を受けることなく、独自に判断できる権限を持たせる必要があります。

コンプライアンス教育は、社内で研修することをおすすめします。
たとえば入社時に新入社員教育の一環として組み込む、中核社員となってくる入社3年目で再研修を行うなど、自社にあった方法で定期的に実施していきましょう。


不正会計の種類と事例

不正会計の防止策を怠った場合、どのようなことが起こるのでしょうか。
不正会計のなかで多いものは次の3つです。

(1)売り上げの水増し
(2)経費の先送り
(3)循環取引

(1)の売り上げの水増しとは、いわゆる粉飾決算です。
粉飾決算は見かけ上の利益が増え、納税額が増えるため、企業にとって損ではないかと考える人もいるかもしれません。
しかし実際は、粉飾決算によって出資額を増やしたり、株式を購入したりといった出資者などが増えるため、企業は不正な利益を得ることになります。

粉飾決済の有名な事件を紹介しましょう。

近年の粉飾決算による事例といえば、2010年に発覚した半導体メーカー、株式会社エフオーアイの『115億円粉飾決算』です。
結果的にわずか半年で上場廃止となり、破産しました。

(2)の経費の先送りとは、当期に計上しなければならない経費を来期にまわすことで、経費分の利益を増加させ利益が上がったかのように見せる方法です。
本来、経費計上のタイミングは発生時です。
そのタイミングを遅らせることで経費分の利益が出ることになります。

具体的な事例としては、2015年のマツモトキヨシホールディングスの子会社イタヤマ・メディコが犯した会計操作があります。
この不正会計により、親会社のマツモトキヨシホールディングスの株価が大幅下落しました。

(3)の循環取引とは、子会社を多く持つグループ会社で行われがちな不正取引です。
架空の商品やサービスによる架空の利益を計上し、グループ内に利益をプールすることを狙います。
循環といわれるのは、親会社と子会社間で仕入と売上を計上し、一般的な市場へ商品が流通することはなく伝票上で商品が行ったり来たりするためです。
伝票上の操作だけで、架空の利益を計上できます。

具体的な事例は、2010年に発覚した『メルシャン』の循環取引です。
メルシャンは総額65億円を架空利益として計上し、証券取引所から管理銘柄に指定され、市場の信頼を一気に失いました。
メルシャンは現在、キリンホールディングスの直接子会社となっています。

上記の事例は大手企業ですが、中小企業であっても、利害関係者がいることに変わりはなく、健全な経営をするためには適切な会計処理が必要です。
不正を未然に防ぐ方法は、必ずあります。
自社にあった方法を積極的に取り入れ、健全な経営を目指しましょう。


※本記事の記載内容は、2022年11月現在の法令・情報等に基づいています。