石田勝也税理士事務所

副業を促進! 労働時間の管理方法に新ルールが導入予定

20.09.08
ビジネス【労働法】
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新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、テレワークが普及するなかで、副業や兼業を始める労働者が増えています。
一方で、依然として従業員の副業に難色を示す企業は少なくありません。
その一因として、本業と副業の通算労働時間を企業側が把握しなければならない『労働時間の管理』の問題があります。
企業や労働者からは再検討を望む声もあり、政府は、2020年秋頃を目処に、ルールの改正に取り組むとしています。
今回は、企業側の懸念事項である従業員の副業と労働基準法の関連について、解説します。
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副業をする労働者は増加傾向にある

副業・兼業を行う人は年々増え続けています。
2018年に厚生労働省が『副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会』に向けてとりまとめた『副業・兼業の現状』によると、2012年には105万人だった副業者数は、2017年は128万8,000人にまで増加しました。
雇用者全体に占める割合も、1.8%から2.2%に増加しています。

政府は2018年を『副業元年』と位置づけ、働き方改革の一環として副業を推進する施策を行ってきました。
同年1月には、厚生労働省が『モデル就業規則』を改定。
『許可なく他の会社等の業務に従事しないこと』という規定を削除し、『労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる』として、副業・兼業についての規定を新設しています。

そして2020年には、コロナ禍によってリモートワークが普及、拡大しました。
通勤時間の減少などにより時間に余裕が生まれた人も多く、副業者や副業希望者はさらに増えています。

しかしながら、依然として就業規則に『副業禁止』を盛り込んでいる企業も少なくありません。


企業が副業解禁に二の足を踏む理由

2018年1月、厚生労働省は『モデル就業規則』の改訂に加え、副業・兼業について企業や働く人がどういう事項に留意すべきかをまとめた『副業・兼業の促進に関するガイドライン』を作成しました。
このなかで、企業側の留意点として以下のように述べています。

【企業における副業の留意点】
必要な就業時間の把握・管理や健康管理への対応、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかという懸念への対応が必要である。

このうち、もっとも企業側が気にしているのは、『就業時間の把握・管理』ではないでしょうか。
『就業時間の把握・管理』には労働基準法の問題が絡んでおり、この点が副業解禁に難色を示す理由にもなっていると考えられます。

労働基準法では、原則として、1日に8時間、1週40時間を超えて労働させてはいけないことになっており、1日8時間を超える労働分に関しては、割増賃金の支払義務が生じます
ところが、現行の労働基準法第38条では『労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する』と規定されており、従業員の労働時間に関しては、本業と副業の合算で考えなければなりません。

たとえば、A社で夜の時間帯に5時間働いている従業員が、B社で昼の時間帯に6時間副業をしていた場合、その従業員の1日の通算労働時間は、合計して11時間になります。
8時間を超える時間外労働分に関しては、労働基準法第37条で割増賃金を支払うことになっており、原則として法定時間外に働かせた事業主側が支払います。
そのため、本業であるにもかかわらず、夜の時間帯のA社が、この従業員に3時間分の残業代を支払うことになってしまいます。

また、従業員は企業に副業についての申告を行う必要がありますが、申告漏れや虚偽申告などによって、残業規制を超えてしまうことがあり、企業側にとっては残業代未払いの法的リスクになると見られています。
このように、労働時間管理の難しさから、副業解禁に二の足を踏む企業が依然として多いのです。


副業・兼業のルール整備が進められている

政府は、2020年7月公表の『成長戦略実行計画』のなかで、副業・兼業の環境整備が急務であるとして、秋頃を目処に、法律を改正するとしました。
従業員からの申告漏れや虚偽申告により残業規制をオーバーしても、企業側は責任を問われず、条件を満たせば、兼業先での労働時間を合算しなくてもよくなる可能性があります
一方で、労働者に不当な長時間労働をさせないための規則についても検討されており、労働時間の管理方法について、新たな方針が模索されています。

副業の流れが加速するなか、副業を禁止していた企業にも、これまでとは違う柔軟な対応が求められるようになります。
副業には、企業側・従業員側の双方にメリットとデメリットがありますから、これらを理解しつつ、副業解禁について一考してみてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2020年9月現在の法令・情報等に基づいています。