石田勝也税理士事務所

介護事業所で「ジョブリターン制度」を導入する際のポイントとは

25.05.06
業種別【介護業】
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少子化による労働人口減少に伴う人材不足問題の対策の一つとして、一度退職した従業員を再雇用する「ジョブリターン制度」の導入が注目されています。
従来の日本の雇用制度では、退職した人材を率先して再雇用するという考え方は馴染みがありませんでしたが、現代社会では働き方の意識が変化しつつあるといえます。
今回は、介護事業所でジョブリターン制度を導入する際のメリット・デメリットや、注意すべき点について解説します。

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「ジョブリターン制度」とは?

「ジョブリターン制度」とは、結婚や妊娠、育児、介護、配偶者の転勤、キャリアアップによる留学などのやむを得ない理由によって退職を余儀なくされた従業員を再雇用する人事制度のことをいいます。
ほかにも「再雇用制度」や「キャリアリターン制度」、「カムバック制度」などさまざまな名称で呼ばれており、各企業にとっても注目されている制度ですが、厚生労働省による「平成29年度雇用均等基本調査」では、ジョブリターン制度を導入している企業の割合は3割程度にとどまっており、まだまだ浸透していない制度であるということがわかります。

近年、そのジョブリターン制度に注目が集まっている要因として最も大きいのは、各企業の人材不足問題です。
特に介護業界では、深刻な人材不足が続いており、「老老介護」や「介護難民」などの問題も顕在化しているため、将来に向けた労働力を確保するための対策が求められています。

では、「ジョブリターン制度」を導入することで事業所はどのようなメリットが期待できるのでしょうか。

(1)採用および教育コストが削減できる
通常、新たに人材を採用する際には、求人広告費や求人用ホームページの作成、就職説明会など、多額の費用が発生します。
一方、「ジョブリターン制度」を導入して人材を募集する場合は、登録されている退職者への案内程度で済むため、採用におけるコスト削減が期待できます。
また、人材教育の面では、通常であれば新たな人材を採用した場合、一定のスキルを持った人材であっても自社のルールや職場環境に慣れさせるために、社員教育が必要となります。
しかし、「ジョブリターン制度」により再雇用を行うことで、すでに社内規則やシステム、業務の手順などを把握しているため、入社後の基礎教育にかかる時間や人件費も削減することができます。

(2)他社での知識やスキルが活用できる
「ジョブリターン制度」を導入して再雇用した場合、従業員がほかの事業所で働いていた際に得た知識やスキルを自社の業務に活かすことができます。
特に同じ介護業界で働いていた経験があれば、業務の管理方法、手順、レクリエーション、社内規則、制度、教育方法などについて、自社とは異なる手法を取り入れて活用できる可能性があります。
また、ほかの事業所での経験があることにより、自社を客観的な視点でとらえることができるため、サービス向上や従業員の満足度の向上につなげられることも期待できます。

(3)事業所のブランディングになる
さまざまな企業がワークライフバランスを目標に掲げていても、依然として多くの方が出産や育児、介護などで退職を余儀なくされています。
このような事情で退職されたとしても、自社に「ジョブリターン制度」があれば、容易に復職することができるため、家庭と仕事の両立を考えている従業員にとっては安心感を持って働くことができます。
また、自社のブランディングにもつながるため、将来に向けて人材採用の強化、応募者数の増加、職場環境の整備などについても大きな期待が持てます。

ジョブリターン制度で注意すべきポイント

「ジョブリターン制度」の導入は、さまざまなメリットがありますが、その一方で注意すべきポイントがいくつかあります。

(1)従業員が不満や不公平感を持つ可能性
「ジョブリターン制度」により一度退職した従業員が再雇用された場合、既存の従業員よりも好待遇で再就職するケースがあります。
このような場合、既存従業員が不満や不公平感を持つ可能性があり、モチベーションの低下や、最悪の場合は退職に至ることも考えられます。
また、再雇用者のグループと既存従業員グループでの軋轢が生じた場合は、職場環境が悪化する可能性もあります。

(2)安易な退職につながる可能性がある
「ジョブリターン制度」は、一度退職した従業員を復職しやすくする制度であるため、気軽な理由による退職を助長してしまう可能性があります。

ジョブリターン制度を導入することにより、人材採用や新人教育にかかるコストを大幅に削減できると共に、他社での経験・スキルの活用や自社のブランディングを通じて、業務改善や職場環境の整備にもつなげることができます。
しかしその一方で、従業員の不満や不公平感、そして安易な退職を招くリスクもあります。
ジョブリターン制度を成功させるためには、導入目的の明確化はもとより、再雇用ルールの整備、既存従業員へのフォロー、再雇用登録者への定期的なアプローチなどについて十分に検討することが求められ、制度の設計が重要なカギとなります。
ジョブリターン制度のメリット・デメリットを正しく理解したうえで、自社に適した制度導入を検討してみてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2025年5月現在の法令・情報等に基づいています。