高木淳公認会計士事務所 / SAO税理士法人 蒲田オフィス

厚生局による『個別指導』の概要と流れを把握しておく

23.10.03
業種別【歯科医業】
dummy
医療機関の保険診療や診療報酬請求が適切に行われているかどうかを確認するために、一定の要件のもと厚生局による行政指導(指導)が行われることがあります。
健康保険法や国民健康法などに基づき、保険医や保険医療機関の指定を受けたすべての医療機関はこの指導を受ける義務があり、歯科医院も例外ではありません。
指導にはいくつか種類がありますが、不正請求の疑いがある場合などは『個別指導』といって、厚生局に疑わしい部分を厳しく確認されることになります。
歯科医院における個別指導の中身や全体の流れについて説明します。
dummy

指導の種類と個別指導の対象となる医療機関

保険制度を運用するためには、すべての医療機関が法令に沿った保険診療を行い、適切な診療報酬請求を行わなければいけません。
そこで、厚生局では医療機関に対して、これらが正しく行われるように指導を行います。

指導には『集団指導』『集団的個別指導』『個別指導』という3つの種類があります。
集団指導は、新規指定を受けて1年ほどの医療機関や指定更新の必要な医療機関などを一定の場所に集めて行われます。
診療報酬改定時などにも行われる、いわゆる講習会のようなもので、特に事前の準備などは必要ありません。

集団的個別指導は、レセプト1件当たりの平均点数が、基準平均点数を超える医療機関が対象になり、講習会の集団部分と、面接方式の個別部分で構成されています。
ただし、現在はほとんど集団部分だけが実施されており、こちらも出席をして講習を受けるだけで問題ないため、特に事前準備などは必要ありません。

医療機関にとって特に注意しなければならないのは、個別指導です。
個別指導は新規指定を対象としたものと、既指定を対象にしたものに分けることができます。
どちらも個別指導の結果によっては、監査に移行したうえで、保険医の登録や医療機関の指定についての取り消し処分を受ける可能性があります。

新規指定を対象とした個別指導は新規指定後おおむね半年から1年以内に実施されますが、状況やエリアによっては1年~2年後に実施されることもあります。
ちなみに、厚生労働省『保険診療における指導・監査』の調査によると、2021年度に新規指定の歯科医院を対象に行われた個別指導は1,084件でした。

個別指導の対象となる既指定の選定条件は、患者や元職員などから不正に関する情報提供があった医療機関や、前回の個別指導で再指導となった医療機関などです。
つまり、保険診療の内容や診療報酬の請求などに関して、不正の疑いがある医療機関ということになります。
2021年度に既指定の歯科医院を対象に行われた個別指導は372件でした。

不正の疑いのある診療報酬請求に関して追求

歯科医院における個別指導の流れは、指導日のおよそ1カ月前に通知が届き、当日は厚生局の会議室などで指導が行われます。
通知には、実施日や時間などのほかに、患者のカルテなど、持参する書類などが記載されているので、忘れないようにしましょう。
もし、書類に不備があると、指導が中断されて、指導が後日に延期されることになります。
指導は、厚生局と都道府県の職員、指導医療官などの立ち会いのもと行われます。

個別指導の内容ついて、歯科医院であれば不適切な治療や投薬、診療録や歯科技工指示書の不備などが指摘されることもありますが、その多くは診療報酬の算定に関するものになります。
歯科訪問診療料や歯周疾患処置、歯周基本治療や歯周外科手術、う蝕処置、歯科口腔リハビリテーション料など、さまざまな保険診療に関して、算定要件を満たしていないものを算定している場合に、厳しく確認を受けることになります。
もし、算定要件を満たしていないのに算定していた場合は、診療報酬の自主返還を求められることもあります。

個別指導が終わると、1カ月以内に指導結果の通知が厚生局より届きます。
結果は全部で4種類あり、問題点が認められない場合は『概ね妥当』、問題はあるものの重大ではないものは『経過観察』、重大な問題があるものは『再指導』、監査が必要なものは『要監査』となります。
ただし、個別指導で監査の必要があると判断された場合には、個別指導が中止され、監査に移行することになるため、要監査が通知されることはほとんどありません。

監査に移行して、診療報酬を不正に請求していたことが明確になった場合、それが故意ではなくても、保険医や保険医療機関の取り消しなどといった重い処分を受ける可能性があります。

大切なのは、個別指導の連絡が届いたら、当日までに事前準備を行うことです。
個別指導には、弁護士の同席が認められています。もし個別指導の通知を受けたら、すぐに詳しい弁護士に相談するとよいでしょう。


※本記事の記載内容は、2023年10月現在の法令・情報等に基づいています。