高木淳公認会計士事務所 / SAO税理士法人 蒲田オフィス

どうすれば過労死を防げる? 建設業界が抱える課題とその対策

20.10.06
業種別【建設業】
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肉体的にも精神的にも負担の大きい建設業の仕事。
業務を起因として脳・心臓疾患や精神障害といった死亡のリスクの高い疾患を発症する労働者も少なくありません。
建設業界において、過労死を防ぐことは大きな課題の一つです。
今回はこうした点にスポットを当て、建設業界で過労死が起きる背景に何があるのか、対策としてどのようなことが考えられるのかなどを考察します。
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建築業界における労災認定の現状

建設業は、2018年に改定された厚生労働省の『過労死等の防止のための対策に関する大綱』において、“調査研究における重点業種等”に加えられています。
調査研究における重点業種等とは、過労死等が多く発生している、または長時間労働者が多いという指摘がある職種・業種を定めたもので、建設業以外には自動車運転従事者、教職員、IT産業、外食産業、医療、メディア業界が対象となっています。

これをふまえ、厚生労働省の『令和元年版過労死等防止対策白書』(以下、白書)では、建設業の現状が明らかにされました。

白書によると、2010年1月~2015年3月に労災認定された脳・心臓疾患および精神障害事案は全業種で3,564件。
このうち建設業界で起こった事案は311件でした。
脳・心臓疾患と精神障害疾患という過労死に深く関わる疾患について、1割近くが建設業界で発生しているということになります。


労災の背景には何があるのか

建設業界において、こうした労災を招く要因はどこにあるのでしょうか。
白書をさらに紐解いてみましょう。

脳・心臓疾患事案162件、精神障害事案149件を職種別にみると、どちらの事案も『技能労働者等』『現場監督、技術者等』『管理職、事務・営業職等』の順に多いという結果でした。

また、脳・心臓疾患事案を発症時の年齢階層別にみると、50歳代が最も多く、労災認定要因としては『長期間の過重業務』が大半を占めています。
労働時間以外の負荷要因別にみたものでは、建設業全体で『精神的緊張を伴う業務』が労災認定の負荷要因になっているケースが多く、現場監督、技術者等および技能労働者等では『拘束時間の長い勤務』も目立ちます。
また、技能労働者等はほかの職種と比べて『作業環境による負荷』が多いという特徴もみられました。

精神障害事案を発症時の年齢階層別にみると、40歳代が最も多いという結果でした。
精神障害の発症に関与したと考えられる業務によるストレス要因としては、現場監督、技術者等は『長時間労働』が最も多く、『仕事内容・量の大きな変化』がこれに次いでいます。
技能労働者等は『労災事故の被害』が最も多く、次に多いのは『いやがらせ・いじめ・暴行』『心理的負荷が極度』でした。
管理職、事務・営業職等は『長時間労働』『上司とのトラブル』『いやがらせ・いじめ・暴行』の順に多いという結果となりました。

自殺事案(未遂を含む)の要因については、現場監督、技術者等および管理職、事務・営業職等は『長時間労働』が最も多く、技能労働者等では『職業病』が最も多くみられました。

データからは、長期間の過重業務や長時間労働などが労災に大きく関わっていること、また、総じて現場監督や技術者等に労災発生件数が多いことがうかがえます。


過労死を防ぐためにとるべき対策とは

こうした建設業界の課題に対しては、たとえば以下のような対策が考えられます。

●業務のスリム化を図る
労働時間が長くなってしまう要因として、そもそもの業務量が多いほか、事務書類が多いことや、予期せぬ設計変更などによる顧客からの不規則な要望への対応に時間をとられることなどがあがっています。
これらを現場ですぐに改善することはむずかしいですが、業務内容を細かく見直すと、工夫次第で改善できる部分が見つかることもあるかもしれません。
『事務書類の簡素化を図れないか』『省略できる手順はないか』『工期や受注の平準化は可能か』など、一度振り返ってみるとよいでしょう。
重要性の低い業務は思い切って外注したり簡略化したりするなど、業務のスリム化を図りたいところです。

●人員を増やす
建設業界において、人手不足は大きな問題の一つです。
とはいえ、採用や教育にはコストもかかるため簡単には増員できない現状もあります。
この問題を解決する一つの手立てとして、国が雇用関係のさまざまな助成金を用意しています。
助成金で人件費や教育に必要な経費を調達することができれば、結果的に従業員の過重労働の負担を減らすことができるかもしれません。

●メンタルヘルス対策を強化する
白書によると、労働災害防止のための取り組みを実施している企業は9割以上あるなか、現場監督等に対する事故発生時のメンタルヘルス対策に関する教育や、労働災害に遭った労働者に対する支援を実施できている企業は2割程度しかないことがわかります。
これからは、メンタルヘルス対策を強化する取り組みを考えていかなくてはなりません。

過労死は、日本の大きな課題です。
そのため政府は、法整備やさまざまな施策などを行い、この問題の解決に取り組んでいます。
企業としては、そういった動向にも注目しながら、従業員の負担を減らしていく努力をしていく必要があります。
脳・心臓疾患や精神障害など、過労死を招きかねない重篤な疾患をできる限り防いでいきましょう。


※本記事の記載内容は、2020年10月現在の法令・情報等に基づいています。