高木淳公認会計士事務所 / SAO税理士法人 蒲田オフィス

10年間の税額控除を受けられる『戦略分野国内生産促進税制』とは

24.12.10
ビジネス【税務・会計】
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『令和6年度税制改正の大綱』に盛り込まれた『戦略分野国内生産促進税制』は、日本の戦略分野のうち、特に生産段階でコストの高い分野の事業に関して、最大10年にわたって法人税を減税する新しい税制です。
本税制の創設によって、該当分野の企業による新たな設備投資や事業展開などが見込まれることから、分野外の企業もまったくの無関係というわけではありません。
創設が予定されている戦略分野国内生産促進税制の概要を把握しておきましょう。

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新しい税制の対象となる5分野を解説

アメリカのIRA法やCHIPS法、ヨーロッパのグリーン・ディール産業計画など、諸外国では新たな産業政策によって、自国の戦略分野による国内投資を促しています。
このような諸外国の産業政策による競争のことを「産業政策競争」と呼びますが、日本でも競争に打ち勝つために、令和6年度税制改正の大綱に『戦略分野国内生産促進税制』という新しい税制の創設が盛り込まれました。

戦略分野国内生産促進税制は、戦略分野のなかでも、特に生産段階でのコストが高いなどの理由から投資判断が容易ではない分野に関して、生産・販売量に応じた税額控除措置を講じるというものです。
本税制の適用対象となる戦略分野として現時点で具体的にあげられているのは、電気自動車、グリーンスチール(鉄鋼)、グリーンケミカル(基礎化学品)、持続可能な航空燃料、半導体の5分野です。

電気自動車は電気がエネルギー源となる自動車のことで、制度の対象となるのは、普通の電気自動車(EV)のほか、軽自動車の電気自動車(軽EV)や燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)などです。
ただし、通常のハイブリッド自動車や電動二輪車などは対象外となります。

グリーンスチールとは生産時の二酸化炭素排出量を従来よりも大幅に削減した鉄鋼のことで、グリーンケミカルとはバイオ原料や廃棄物などが由来の化学製品のことを指します。
また、持続可能な航空機燃料は、バイオ原料や廃棄物などが由来の航空機燃料のことです。
スマートフォンや家電製品などにも使用されている半導体は、さまざまな種類がありますが、本税制の対象となるのはマイコンとアナログ半導体に限られます。

これら5分野は総事業費が大きく、また生産段階で膨大なコストもかかるため、決して採算性が高くはありません。
しかし、国内の中長期的な経済成長のためには必要不可欠な分野です。
そのため、各分野の国内投資を引き出すことを目的に、戦略分野国内生産促進税制が創設されることになりました。
本税制の創設によって、該当分野の企業による技術革新はもちろん、新たな設備投資や事業展開などにより、関連企業も活性化することが期待されています。

産業競争力基盤強化商品と控除額の求め方

本税制の対象となるのは5分野の事業を行う青色申告法人で、税額控除を受けるためには、事前に策定した事業適応計画の認定を受けなければいけません。
この事業適応計画の認定は改正された「産業競争力強化法」の施行日から、2027年3月31日までの間に受ける必要があります。

適用対象法人が、事業適応計画に基づいて取得した「産業競争力基盤強化商品生産用資産」を国内で事業供用し、「産業競争力基盤強化商品生産用資産」によって「産業競争力基盤強化商品」を生産・販売した場合、対象期間内(事業供用日から認定日以後10年を経過する日まで)の日を含む各事業年度において、各事業年度に販売されたものの数量に、規定の控除額と一定割合を乗じて計算した控除額について、法人税の税額控除を受けることができます。
ただし、控除額は、この販売数に応じた金額と、産業競争力基盤強化商品生産用資産の取得価額を基礎とした金額のいずれか少ない金額の合計額とされ、法人税額の40%が上限となります。
産業競争力基盤強化商品とは本税制の対象となる商品のことで、産業競争力基盤強化商品生産用資産とは産業競争力基盤強化商品を生産する設備などの減価償却資産のことを指します。

産業競争力基盤強化商品の単位あたりの控除額は各分野で異なります。
たとえば電気自動車の控除額は、EV・FCVは1台40万円、軽EV・PHEVは1台20万円です。
グリーンスチールは1トン2万円、グリーンケミカルは1トン5万円、持続可能な航空燃料は1リットル30円と定められています。
半導体については、物資のスペックにより細かく規定されているので、経済産業省のホームページなどで確認しておきましょう。

法人税が控除されるのは最大で10年間ですが、注意したいのは控除額が段階的に引き下げられるということです。
産業競争力基盤強化商品を生産するための生産用資産を事業に使用した日から、7年を経過する翌日、つまり8年目以降から75%、9年目以降は50%、10年目以降は25%と控除額が引き下げられます。

戦略分野の事業者や関連事業者にとっては大きな関心ごとでもある戦略分野国内生産促進税制は、生産し販売したものの数量などに応じて税額が控除できるため、非常に高い減税効果が得られる税制です。
現在は、制度の運用に際して省令や告示などの規定が整備されている最中なので、今後の動きを注視しておきましょう。


※本記事の記載内容は、2024年12月現在の法令・情報等に基づいています。